レプトスピラ症の検査法
(Vol. 29 p. 7-8: 2008年1月号)

病原体
レプトスピラ属細菌(Leptospira spp.)は、スピロヘータ目レプトスピラ科レプトスピラ属に属するグラム陰性細菌で、病原性レプトスピラL. interrogans sensu latoと非病原性レプトスピラL. biflexa sensu latoに大別される1)。レプトスピラは、現在、種名のついた13種とまだ分類が確定していない4つの遺伝種(genomospecies)からなり2-4)、さらに免疫学的性状により250以上の血清型に分類されている(表1)1)。

レプトスピラは、炭素数15以上の長鎖脂肪酸をエネルギー源かつ炭素源として利用し、そのほかビタミンB1、B12を必須栄養素とする。そのためレプトスピラの培養にはコルトフ培地やEMJH培地など、特別な培地が用いられる。レプトスピラは、微好気もしくは好気的な環境で生育するスピロヘータで、中性あるいは弱アルカリ性の淡水中、湿った土壌中で長期間生存することができる1)。

検査法
レプトスピラ症の確定診断は、病原体の分離、あるいはペア血清を用いた顕微鏡下凝集試験(MAT)によって行われる。なお、検査は国立感染症研究所・細菌第一部で受け付けている。

a.顕微鏡法2)
感染初期には、暗視野顕微鏡(倍率100倍)によって血液や尿から直接レプトスピラが観察される場合があり、早期診断に有用である。しかしながら、感度が低く、また、ひも状になったフィブリンや他のタンパク質をレプトスピラと見誤ることがあるため、習熟を要する。顕微鏡法はその結果にかかわらず、菌の分離、血清診断法によって追試する必要がある。

b.培養法2, 5)
病原体の分離には、抗菌薬投与以前の発熱期の血液、髄液あるいは尿が用いられる。血液からの分離は、血液1、2滴を5mlのコルトフ培地あるいはEMJH培地に接種する。しかしながら、レプトスピラ分離培地は病院に常備されていないことが多い。その場合は、ヘパリンを用いて採血し、常温で検査機関に送付する。髄液の場合は、 0.5mlを5mlの培地に接種する。尿からの分離の場合は、発熱期と第2病週のものが検体となる。尿1滴を5mlの培地に接種する。培地にすぐに接種できない場合は、検体採取後速やかに弱アルカリ性(pH 7.0〜7.4)とするか、遠心分離(1,600×g、30分あるいは10,000×g、1分)により菌を沈殿させ、それをPBSに懸濁後、常温で送付する。尿培養の場合、他の細菌の混入を避けるために100μg/mlの5-フルオロウラシルを加える場合もある。培養は30℃で3カ月間行い、暗視野顕微鏡で観察を行う。

c.血清診断法
1)顕微鏡下凝集試験(Microscopic Agglutination Test: MAT)5)
確定診断のためには、ペア血清(発症直後と、発症後10日〜2週間程度の血清)を用いたMATが必要である。MATは、血清とレプトスピラ生菌を混合し、菌の凝集を暗視野顕微鏡で観察する試験法である。ペア血清で抗体陽転、あるいは4倍以上の抗体価の上昇が認められた場合を陽性とする。MATは特異性が高く、血清型あるいは血清群特異的な抗体を検出する方法である。

2)その他の血清診断法
確定診断にはMATによる抗体検出が必要であるが、生菌が必要なこと、特異性が高いために試験に用いた血清型(血清群)以外に対する抗体は検出できない可能性があること、またペア血清を用いるために結果が出るまでの時間がかかることから、それを補うためのレプトスピラ属特異的抗体検出、および早期診断のためのIgM抗体を検出する血清診断法が開発されている。IgM-ELISAやDipstickなどのキットがある。

d.PCR
抗菌薬投与以前の発熱期の血液、髄液、尿(尿の場合は第2病週のものも)、あるいは房水、組織から、PCRによりレプトスピラDNAの検出が行われている2, 6) 。

参 考
1) Faine S et al ., Leptospira and Leptospirosis, 2nd edn, Melbourne: MediSci, 1999
2) Levett PN, Clin Microbiol Rev 14: 296-326, 2001
3) Levett PN, et al ., Int J Syst Evol Microbiol 55: 1497-1499, 2005
4) Levett PN et al ., Int J Syst Evol Microbiol 56: 671-673, 2006
5) WHO, Human leptospirosis: guidance for diagnosis, surveillance and control, WHO, Geneva, Switzerland, 2003
6)小泉信夫,他, 感染症学雑誌 77: 627-630, 2003

国立感染症研究所細菌第一部 小泉信夫
国立感染症研究所副所長 渡辺治雄

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