和歌山市内の身体障害者療護施設で、サポウイルスによる集団感染事例が発生したので概要を報告する。
2007年11月27日に和歌山市内の身体障害者療護施設(利用者数75名、職員32名)から、複数の入所者および職員が胃腸炎症状を呈しているとの届出があり、調査を実施した。日別患者発生状況(図1)に示すとおり、11月22日〜12月6日にかけての15日間にわたって患者の発生が続き、合計26名が発症した。症状は、嘔吐、下痢で、発熱を伴うものもあった。 施設内に給食施設はあるが、発症状況から感染症事例であることが疑われた。患者の内訳は職員8名、入所者18名(ショートステイも含む)で、職員/入所者別患者発生状況(表1)から、最初に発症した職員から、複数の職員、入所者に感染が広がり、さらに入所者間で広まったと推測された。
患者便6検体について、リアルタイムPCRによりノロウイルスの検査を実施したが、すべて不検出であった。そこで、ウイルス性下痢症診断マニュアルの方法に従いサポウイルスのRT-PCRを実施したところ、6検体すべてから目的とするサイズのPCR産物を検出し、ダイレクトシークエンスでサポウイルスであることが確認された。後日搬入された患者便の一部からもサポウイルスが検出され、最終的に18検体中12検体(職員4名、入所者8名)からサポウイルスが検出された。遺伝子型代表株との分子系統樹解析の結果、検出されたサポウイルスはすべてgenogroup IV型(GIV)で、PCR産物の塩基配列はすべて一致していた。したがって本事例は、サポウイルスGIVによる集団嘔吐下痢症であると考えられた。
サポウイルスはノロウイルスと同じカリシウイルス科に属し、小児の散発性胃腸炎の起因ウイルスとして知られているが、集団発生事例の報告は少ない。2007年においては、5月に京都市で修学旅行生のサポウイルスによる集団食中毒事例が報告され(IASR 28: 294-295, 2007)、また、熊本県では9月〜12月にかけて地域流行が発生したと報告されている(本号12ページ)。これらの報告によると、検出されたサポウイルスは両事例ともに本事例と同じGIVであった。 また、本事例の株は、2007年に大阪で検出された株(Sapovirus Hu/Osaka/19-086/2007/JP)と100%の相同性を示した(図2)が、京都市の事例も同じ株に100%の相同性を示したとされている。したがって、このタイプのサポウイルスが広く近畿地方に侵淫していることが示唆された。
サポウイルスはノロウイルスと同様、食品を介したり、人→人感染を起こすことに留意するとともに、食中毒、感染症事例においてウイルス性の嘔吐下痢症が疑われ、ノロウイルスが不検出であった場合には、サポウイルスを検索する必要があると思われた。
和歌山市衛生研究所
薮内益郎 金澤祐子 廣岡貴之 池端孝清 小田川俊彦 森野吉晴
和歌山市保健所
丹生哲哉 松浦英夫 永井尚子