愛媛県宇和島市における百日咳の小流行について−愛媛県
(Vol. 29 p. 73-74: 2008年3月号)

2007年8月〜12月にかけて、愛媛県宇和島市において咳嗽を主訴とする百日咳様患者の発生が続いたため、当所において病原体検索を実施したので報告する。

県内では2002年以降定点当たり患者数が0.06を下回る状況で、県下全域で散発的な患者発生に留まっていた。しかし、2007年の8月以降小児科定点からの患者報告が続いた。届け出は宇和島保健所管内に集中しており、第34週〜第44週を中心として第50週以降も散発的に発生した(図1)。そこで小児科定点の市立宇和島病院に検体採取を依頼し、宇和島保健所の協力を得て病原体検索を行った。検査は病原体検査マニュアルにより、分離培養と遺伝子検査(LAMP法およびPCR法)を行った。

シードスワブγ2号に採取した鼻咽頭分泌物を滅菌カザミノ酸溶液に懸濁させ、培養検査にはボルデテラCFDN寒天培地を用いた。遺伝子検査に用いるDNAの抽出にはQIAamp DNA Micro Kitを用いた。LAMP法は国立感染症研究所細菌第二部で作製されたLAMP試薬キット1)を使用し、目視により蛍光の有無を確認した。

採取された鼻咽頭ぬぐい液検体は40件で、1〜4歳が18件とほぼ半数を占めた。菌分離は1例のみ陽性となった。通常のPCR法では検出されなかったが、LAMP法では11件が陽性となった(表1)。さらに、患者DNA検体を国立感染症研究所細菌第二部に送付し、multilocus sequence typing(MLST)による遺伝子型別を依頼した。その結果、9〜10月の陽性DNA検体のうち4件がMLST-2型と型別され、一方、11月の3件(家族内発生)はMLST-1型と型別された。これらの結果から、愛媛県宇和島市で発生した百日咳の小流行は2型によるものと推察されたが、1型による家族内発生も混在していたことから、その流行原因は単一でないことが推察された。

今回遺伝子検査に用いたLAMP法試薬は、国立感染症研究所細菌第二部で開発され、百日咳レファレンス支部センター(IASR 29: 42, 2008)に配布されたものである。従来のPCR法に比べて簡便で感度が高く、特異性にも優れている1)。今後、LAMP法による百日咳診断法の普及が望まれる。

 文 献
1) Kamachi K, et al ., J Clin Microbiol 44: 1899-1902, 2006

愛媛県立衛生環境研究所 吉田紀美 青木紀子 田中 博 大瀬戸光明
市立宇和島病院小児科 林 正俊

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