1.成人持続咳嗽(2週間以上)患者におけるLAMP法による百日咳菌抗原(遺伝子)陽性率と臨床像
当院では、呼吸器内科と共同で、2週間以上の咳で受診した20歳以上の成人患者を対象に表1に示す百日咳診断の目安に従って、百日咳感染を調査してきた。2007年1年間の百日咳症例の年齢分布を図1に示す。思春期・成人では、10〜15歳が多く、次いで30代、20代が目立った。これまで、多くの症例では凝集素価(東浜株・山口株)や百日咳毒素(pertussis toxin:PT)-IgG抗体測定による血清診断で行ってきた。2007年5月以降は血清診断に加え、菌分離用に採取したスワブからLAMP法によるPT遺伝子の検出を国立感染症研究所細菌第二部との共同研究で行ってきた1)。
LAMP法によるPT遺伝子陽性群(A群)、PT遺伝子は検出できなかったが血清診断陽性群(B群)、LAMP法でも血清診断でも陰性で百日咳とは診断できなかった群(C群)の臨床症状の違いを表2に示す。
各群とも年齢、白血球数、%リンパ球には差がなかった。受診までの咳の持続期間はA群とC群間およびB群とC群間で有意差があった。百日咳感染(A群・B群)群間では、LAMP陽性、陰性で差がなかった。臨床症状では、百日咳に特徴的な「発作性の咳込み」はA群とB群間で有意な差が認められた。「咳込み後の嘔吐」に3群間で差は認められなかった。DTP ワクチン未接種の小児患者に特有な「吸気性笛声」は、A−B群間、A−C群間で有意差があり、成人百日咳でも10.5〜50.0%認められた。「胸痛」・「息苦しい」・「息が止まりそう」は、A群が多かったが有意差は認められなかった。一方「喘鳴」は、百日咳に感染していないC群に多かったが、有意差は認められなかった。「家族内など周囲の咳」は、百日咳感染群と非感染群とで有意差が認められた。
これまで、成人で2週間以上の咳で当院を受診した患者でのLAMP陽性率は26/69(37.7%)であった。
2.成人百日咳の疫学上の変化と発生動向調査制度の見直し
1981年からわが国では世界に先駆け、副反応が少なく効果も優れた無細胞百日咳ワクチン(DTaP)が接種されている。接種率上昇とともに百日咳患者は著明に減少してきた。ただ、年齢割合に変化が認められる。感染症発生動向調査事業では、わが国の百日咳患者は2000年頃から10歳以上の割合が増加しているが、この事業では百日咳は小児科の5類定点把握疾患であることに留意する必要がある。小児科定点からの思春期・成人症例は、氷山の一角にすぎない。思春期・成人症例を確実に把握するためには、現行の発生動向調査体制では限界がある。
文 献
1) Kamachi K, et al ., J Clin Microbiol 44(5): 1899-1902, 2006
国立病院機構福岡病院小児科 | 岡田賢司 |
国立感染症研究所細菌第二部 | 蒲地一成 |
国立病院機構福岡病院呼吸器科 | 野上裕子 |
同 細菌検査課 | 師岡津代子 |