近年、腸管系病原菌において、フルオロキノロン(FQ)薬剤耐性菌の出現が問題となっている。我々は、散発下痢症患者由来のFQ耐性大腸菌O153について既に報告したが、今回は血清型O25について、薬剤感受性、経年別の検出頻度、gyrA とparC 遺伝子のキノロン耐性決定領域(QRDR)における変異および最小発育阻止濃度(MIC)を報告する。
1998〜2007年の福井県の散発下痢症患者由来大腸菌O25 143株について、KB法で12剤の薬剤感受性を調べた。薬剤別の耐性(中間の感受性を含む)率はアンピシリンが46%、ナリジクス酸(NA)が39%、ストレプトマイシンが36%、シプロフロキサシン(CPFX)が31%、カナマイシンが 9.1%およびホスホマイシンが 7.7%などであった。3〜6剤に耐性を示す43株中29株、および7〜10剤に耐性を示す14株中13株の計42株がFQ系薬剤耐性菌であった。FQ耐性菌をH血清型別にみると、H4では49株中32株(65%)、H5では9株中7株(78%)、H6では6株中1株(17%)およびHNMでは40株中2株(5.0%)検出され、その他のH血清型39株では検出されなかった。この他に、5剤と7剤に耐性を示すHNM の各1株がNAに耐性およびCPFXに中間の感受性を示した。FQ耐性株は、年別にみると2002年に13株中2株(15%)検出されて以来、2003〜2006年までの年ごとの検出率は23〜42%であったが、2007年は23株中12株(52%)検出された(図1)。また、患者の年齢が判明した33名の年齢区分をみると、0〜9歳が70歳以上とほぼ同数の12名(36%)であった。
次に、QRDR変異によるアミノ酸置換は、置換のパターンにより44株(CPFXが中間の感受性の2株を含む)を4typesに分類した(表1)。Type 1は変異が見られず、Type 2はGyrAの83位のSerからLeuへの置換(S83L、以下同様に示す)およびParCのE84Gが確認された。Type 3はGyrAとParCで計3カ所の変異が確認された。Type 4はGyrAのS83LとD87NおよびParCのS80IとE84Vがある株で39株確認された。
QRDR変異におけるアミノ酸置換とフルオロキノロン系薬剤のMICの関係を表1に示した。CPFXに中間の感受性を示した2株以外の42株では、CPFX、オフロキサシン(OFLX)およびノルフロキサシン(NFLX)のMICはアミノ酸置換のtype間での著しい差は見られなかった。また、MICの分布はCPFXおよびOFLXでは32μg/ml、NFLXでは128μg/mlをピークとする一峰性を示した。
内田らは2005年の臨床検体より分離されたFQ耐性大腸菌は18%であったと報告している。福井県では1997〜2007年に、FQ耐性株が散発下痢症患者由来大腸菌530株中84株(16%)確認され、そのうちの74%が2種類の血清型で占められた。すなわち、O153の44株中20株(45%)およびO25の143株中42株(29%)で確認され、その他の血清型では343株中22株(6.4%)であった。中でも、O25:H4は近年高率に確認されるようになり、今後の動向に注意する必要がある。また、O153のQRDR変異におけるアミノ酸置換では、parC 遺伝子の84位の主な変異がGluからGly(E84G)であるのに対し、O25ではGluからVal(E84V)を示したこと、およびO153のNFLXのMICの分布は32および256μg/mlにピークがある二峰性を示すのに対し、O25は一峰性を示したのは興味深い。
最後に、菌株を分与して頂きました各医療機関の細菌検査担当者に深謝します。
文 献
1) Stelling JM, et al ., Emerg Infect Dis 11: 873-882, 2005
2)内田勇二郎,他,感染症誌 81: 220, 2007
3)石畝 史,他,感染症誌 80: 507-512, 2006
福井県衛生環境研究センター 石畝 史 山崎史子 村岡道夫