過去8年間に分離されたアデノウイルス−神戸市
(Vol. 29 p. 95-96: 2008年4月号)

今回、過去8年間(2000年4月〜2007年12月)に神戸市立医療センター中央市民病院小児科から依頼のあった検体より分離されたアデノウイルス(Ad)の分析を行ったので報告する。

患者は、おもに上気道炎、下気道炎、急性胃腸炎、不明熱、腸重積症、角結膜炎等の疾患のある小児で、検体は咽頭ぬぐい液や便、尿、結膜ぬぐい液である。ほとんどの症例で咽頭ぬぐい液と便が提出された。当研究所では、これら検体をFL、HEp-2、Vero-E6、RD-18Sの細胞に接種し、細胞変性があったものを分離陽性とし、デンカ生研の抗血清(Ad8の抗血清は国立感染症研究所から分与)にて中和試験を行い同定した。

Ad分離陽性であった236症例の年度−型別を表1に、疾患別−型別を表2に示した。型別では、3型89症例(38%)、2型75症例(32%)、1型32症例(14%)、5型23症例( 9.7%)の順で検出された。疾患別では、上気道炎93症例(39%)、下気道炎32症例(14%)、腸重積症30症例(13%)、不明熱24症例(10%)、胃腸炎20症例(8.5%)の順に多かった。また、236症例から346株のAdが分離され、便から175株(51%)、咽頭ぬぐい液から148株(43%)、結膜ぬぐい液から10株(2.9%)、その他尿、鼻汁などから検出されており、便からの検出が最も多かった。

次に表2をもとに、多数分離されたAd1、Ad2、Ad3、Ad5と疾患の関連を分析した。一番多く分離されたAd3では上気道炎が49%と最も多くを占めていた。Ad1、Ad2、Ad5は上気道炎からも多く分離されているが、比率はAd3より若干少なく、一方下気道炎での分離は多くなり、Ad3における下気道炎の比率の約2倍であった。特にAd5は腸重積症の占める割合が一番多く、特徴的であった。

次に、疾患から分離率を見ると、上気道炎では半数近くをAd3が占め、次にAd2、Ad1と続くが、下気道炎、腸重積症ではAd2が一番多くなり、さらにAd3以外にAd1とAd5が高頻度に分離されている。

また、Ad感染症の発生は通年性であるといわれているが、図1を見てみると、比較的4月〜7月に分離件数が多く、8月から減少傾向にある。

男女差についても検討してみた。男128症例、女108症例と男性の方が多かった。しかし、年度・型による特徴的な傾向は無かった。

以上、呼吸器疾患や消化器疾患、そして不明熱などの原因を考えるとき、夏場のエンテロウイルス、冬場のインフルエンザウイルスに加えて、年間を通してAdを念頭においたウイルス分離が必要であると思われる。

神戸市環境保健研究所微生物部 須賀知子 秋吉京子
神戸市立医療センター中央市民病院小児科 春田恒和

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