川崎市における流行性角結膜炎からのアデノウイルス分離状況
(Vol. 29 p. 98-98: 2008年4月号)

ヒトのアデノウイルス(Ad)は咽頭結膜熱(PCF)、流行性角結膜炎(EKC)、出血性膀胱炎および感染性胃腸炎など多彩な症状を引き起こすウイルスで、現在、51血清型に分類されている。また、生化学的および血清学的性状によりA〜F種に分類されている。その中でD種はEKCの主な原因ウイルスとされている。Adの血清型の同定は一般的に細胞培養後の中和試験によって行われるが、D種は増殖が遅いため、中和試験での同定が難しいもの、あるいは、抗血清が市販されておらず、入手の難しいものが多くみられる。今回、DNAシークエンサーを用いたAdの血清型の同定法を用い、遺伝子解析を行ったので報告する。

材料と方法
ウイルス検査は、2005年4月〜2008年3月までの3年間に、眼科定点においてEKCと診断された患者から結膜ぬぐい液を採取し、CaCo-2細胞にて培養した。細胞培養にてCPE確認後、培養上清を採取し、Adの構造蛋白であるヘキソンの超可変領域(HVR)に設定したプライマー[Takeuchi et al ., J Clin Microbiol 37(6): 1839-1845, 1999]を使用したPCRを行った。増幅産物はダイレクトシークエンスを行い、国立遺伝研究所のBLAST 検索を使用して血清型を同定した。なお、シークエンスデータは遺伝子解析ソフト(GENETYX Version7.0)を用いてアライメントを行い、ホモロジーの検索を行った。

結果および考察
当所には91件の結膜ぬぐい液が搬入され、そのうち51株(分離率56%)のAdが分離された。血清型別では3型が3株、8型が29株、11型が1株、15型が1株、19型が6株および37型が11株であり、8型が最も多かった。種別ではB種(3型、11型)が4株分離されたが、D種(8型、15型、19型、37型)が47株で、分離株の大半(92%)を占めた。

年度別の分離状況をに示した。2005年の8月〜10月にかけて8型が25株分離され、単一の血清型による流行がみられたが、それ以外は季節に関係なく通年的に散発して分離された。

D種のAdについて遺伝子解析を行った結果、ホモロジーは19型(6株)では99.7〜100%、37型(7株)では99.8〜100%であり、一致率は高かったが、8型は77.6%〜100%の違いが認められた。BLAST検索の結果、8型29株のうち26株がAd8I、3株がAd8Pの遺伝子型であった。Adhikaryら(J Clin Pathology 56:120-125, 2003)によると、Ad8Iは日本において1995年に初めて検出され、現在までの流行の主流になっていると報告されている。今回の結果においても、分離された8型のほとんどがAd8Iであった。しかし、Ad8Pは2005年度1株(1/26)、2006年度1株(1/2)、2007年度1株(1/1)で、毎年各1株検出され、8型の遺伝子型は変化していく可能性がある。

日本におけるAdの疫学はPCFに代表される呼吸器系疾患においては各地方衛生研究所で行われているが、眼科定点からの分離報告は少ない。今後、眼科領域のウイルス分離検査についても、積極的に行っていく必要があると思われる。

川崎市衛生研究所
清水英明 奥山惠子 平位芳江 岩瀬耕一 小川正之

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