2006/07シーズンにおける超過死亡の評価
(Vol. 29 p. 105-107: 2008年4月号)

インフルエンザの社会的インパクトを評価するにあたって、インフルエンザによる死亡者数が重要である。その際に単に原死因がインフルエンザの記載のあるものだけでなく、より広くインフルエンザが直接間接に影響し、インフルエンザ流行がなければ回避できたであろう死亡(超過死亡)として定義する考え方が国際的にも行われている。2007年8月にはベトナム・ハノイにおいてその国際会議(Multinational Influenza Seasonal Mortality Study)が行われた。わが国における超過死亡は、確率的フロンティア推定法による「感染研」モデルを用いて推定されている1-3)。

2006/07シーズンにおける、全国の超過死亡の状況を、総死亡数において推定した結果を図1に示す。線が総死亡者数で、ぬりつぶされた面積が超過死亡者数である。より明らかなように2006/07シーズンでは超過死亡が観測されず、1990年以来の0を認めた。

しかしながら、総死亡数における超過死亡の推定は、人口動態統計の公表まで待たなくてはならないため、より早くインフルエンザによる影響を知るために、1999年度から厚生労働省健康局結核感染症課によって、東京都特別区および政令指定都市において、「インフルエンザ関連死亡迅速把握」事業が行われている。この事業では、総死亡ではなく、インフルエンザと肺炎による死亡数を元に実施されており、死亡届の数段階ある死因のいずれかにインフルエンザあるいは肺炎の記載がある死亡者数がおおむね週に1度、保健所の協力を得てNESID に登録され、その解析結果の還元は国立感染症研究所感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-rpd/index-rpd.html)で一般に公開されている。これにより約2週間のタイムラグで情報が得られる。

このシステムにおいては、自治体別のデータも提供されているが、例として参加16自治体における合計の結果を図2に示す。2006/07シーズンは前述したように全国の推定では超過死亡が観察されなかったものの、迅速把握事業では超過死亡が確認されている。このような矛盾した現象が生じた理由として、前者では死因を問わない総死亡数を使用し、後者はインフルエンザあるいは肺炎による死亡数を使用したことによる違い、あるいは、推定の過程で直近の人口増、高齢化の進展に対応できず下方に偏りをもち、超過死亡が過大に推定されたことが考えられる。

超過死亡の推定により、インフルエンザによる国民への影響を迅速に評価することは、今後の新型インフルエンザの出現に備える意味でも、非常に重要であり、今後、より現状を正確に把握できるように、検討を進める必要がある。

最後に、都道府県別の超過死亡の発生状況を図3に示す。死因別の死亡者数は公表まで1年を要するために過去のインフルエンザシーズンにならざるをえないが、ここでは2004/05シーズンでの各都道府県別に超過死亡率(対人口)を示している。ここでの死因は総死亡(左目盛)と、原死因がインフルエンザあるいは肺炎(右目盛)としている。これらの情報が、インフルエンザの社会的なインパクトの理解と予防接種の重要性を認識するための資料として活用されることを期待する。またこの情報が、新型インフルエンザ発生時には、その病原性を判断する上で基本的な情報になると思われる。

 文 献
1)大日康史,他, IASR 24(11): 288-289, 2003
2)大日康史,他, IASR 25(11): 285-286, 2004
3)大日康史,他, IASR 26(11): 293-295, 2005

国立感染症研究所感染症情報センター 大日康史 谷口清州 岡部信彦

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