学生食堂で発生した腸管出血性大腸菌O157による大規模食中毒事例−東京都
(Vol. 29 p. 120-121: 2008年5月号)

2007年5月16日〜6月3日までの19日間にわたって、都内の学生食堂において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による患者数445名、うち溶血性尿毒症症候群(HUS)発症者3名(大学生2名、中学生1名)の大規模食中毒が発生したので、その概要と検査状況について報告する。

5月25日、都内の医療機関からEHEC感染症(O157、VT2産生)の発生届があった。患者はA大学の学生であった。一方、同日夕刻にA大学職員から、胃腸炎症状の学生が10数名入院しているとの相談が保健所にあり、A大学でO157の集団発生が起きていることが判明した。

保健所による調査の結果、下痢、腹痛等の症状を呈した患者は学内の中学生・高校生・大学生・教職員等であり、調査対象者は、学生食堂利用の可能性のある約7,700名に及んだ。患者に共通する食事は学生食堂Bが調理した食事および弁当のみであった。食堂Bは5月26日から営業を自粛していたが、東京都は5月28日に食堂営業者に対して営業禁止処分を行った。本事例においては、東京都健康安全研究センター以外も含め、全体で7,170名の検便が実施され、EHEC O157:H7(VT2) が合計204名から検出された。

当センターで行った細菌学的検査では、5月26日〜7月31日までに搬入された糞便1,739検体中147検体からEHEC O157:H7(VT2)が、1検体からO157:H7(VT1&2)が検出された。その内訳は表1に示した通りである。調理従事者からも高率(27%)に本菌が検出されたが、これらの従事者も学生と同じ食事を喫食しており、有症者もいた。O157が検出された人のうち、除菌確認のために再検査する経過者糞便が6月2日から搬入され始めた。1人につき複数回(最高8回)、経時的に検査をした結果、延べ218検体のうち53検体(28名分)からO157が検出された。中には、発症から約1カ月後まで長期間にわたって本菌が検出された人もいた。

糞便の検査方法は、直接分離培養と増菌培養を並行して行い、分離培地にはCT-SMAC寒天を、増菌培地にはCT-TSBを使用して37℃18時間培養した。

O157が検出された148検体のうち、直接分離で検出したのは113検体、増菌培養でのみ検出したのは35検体であり、約4分の1の検体では増菌培養でのみ検出された。また、増菌培養液114検体については、塩酸処理も同時に行った結果、処理無しで陽性が24検体、処理有りで陽性が27検体であった。塩酸処理有りのみで陽性となった検体は3検体であったが、全体的に塩酸処理した分離寒天平板からの釣菌は、O157以外の菌の発育が抑制されているため、非常に容易であった。

疫学解析のために138名から分離された186株のO157:H7(VT2)株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法でDNAパターンを調べた結果、176株(95%)がT-0712型で、同一のパターンを示していた。中にはバンドが1〜2本異なるパターン(b、c、d、f、h、j)の株も10株認められたが、これらは同一起源であると推察された(表2図1)。

また薬剤感受性試験は、CP、TC、SM、KM、ABPC、ST、NA、FOM、NFLXの9薬剤について行った結果、すべての株は感受性であった。

食品120検体(5月15日〜25日の検食106検体、参考品14検体)、ふきとり49検体および水4検体からEHEC O157は検出されなかった。ただし、検査した食品の中に疫学的に原因が疑われる食品は含まれていなかった。

今回の事例では、食品から本菌が検出されなかったが、喫食状況等から5月14日〜25日までの10日間(営業日)に食堂Bで調理された食事、または弁当が原因食品であると推定された。中でも、千切りキャベツやレタス等の生野菜が調理施設内でEHEC O157に継続的に二次汚染され、原因食材となった可能性が高いと推察された。

東京都健康安全研究センター微生物部食品微生物研究科

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