仕出し弁当が原因となった腸管出血性大腸菌O157大規模食中毒事例−宮城県
(Vol. 29 p. 122-123: 2008年5月号)

2007年9月末〜10月にかけて、宮城県内の飲食店が製造した仕出し弁当を原因とする腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7 (VT1&2)による大規模集団食中毒が発生したので、その概要を報告する。

探知:2007年10月1日、秋田市保健所より、秋田わか杉国体の応援警備に派遣された宮城県警職員121名のうち60名が腹痛・下痢・発熱等の食中毒症状を呈し、市内の医療機関で便の検査をした9名全員からEHEC O157が検出されたとの通報が宮城県にあった。宮城県、仙台市および秋田市が調査した結果、国体警備に派遣された複数の県警グループのうち、発症したのは宮城県警グループのみであり、共通食として9月26日の昼食に宮城県多賀城市の飲食店(仕出し弁当)が製造した弁当を食べていたことが判明したことから、この弁当が原因の食中毒が疑われた。一方、10月4日には県内の事業所より、従業員59名が9月25日頃から下痢・腹痛・血便の食中毒症状を呈している旨の、さらに県内3医療機関より、患者便からEHEC O157が検出された旨の通報があり、管轄保健所の調査の結果、これらの患者は当該飲食店が製造した弁当を喫食していたことが判明し、他に共通食がなかったことからこの弁当が原因の食中毒と断定された。

症状等:当該弁当の喫食者のうち、調査対象者は総数で4,243名になった。うち発症者は314名で、10代〜70代以上の様々な年齢層であり、男性は263名、女性は51名であった(表1)。発症日は9月21日〜10月8日まで確認されているが、有症者の6割が9月28日〜30日に発症していた(図1)。喫食者として調査した4,243名中EHEC O157陽性者は143名であり、このうち有症者は64名、無症状者は79名であった。発症者の平均潜伏時間は112.8時間で、主な症状は下痢(95%)、腹痛(91%)、発熱(20%)等であった。なお、喫食者の家族等人から人への二次感染を含めたこの事例関連のEHEC O157陽性患者届出総数は173名であった。

菌分離:保健環境センターでは、9月21日〜10月4日に製造された弁当86食、食材49件、飲食店内の器具・設備のふきとり32件、水1件、弁当を製造した飲食店の従業員78名、弁当喫食者115名の検査を行った。その結果、弁当1件(9月25日製造)と従業員12名、喫食者38名からEHEC O157:H7 (VT1&2)を検出した(表2)。EHEC O157陽性であった飲食店従業員12名の内訳は、調理従事者6名、配達従事者4名、事務職員2名であり、うち11名は当該弁当を喫食していた。なお、調理従事者は月1回の定期検便を実施しており、9月26日の検査では全員がEHEC O157陰性であった。また、感染症法の観点から、接触者調査としてEHEC O157陽性者の家族等151名の検査を行い、2名からEHEC O157を確認した。

分離菌株のPFGE解析:検出したEHEC O157菌株について制限酵素Xba Iを用いパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した。その結果、従業員由来の12株(弁当喫食11名、非喫食1名)と、弁当喫食者由来の2株、患者の家族で弁当非喫食者由来の2株、弁当由来の1株はすべて同一パターンを示した(図2)。検出したEHEC O157 53株(弁当由来1株、従業員由来12株、喫食者由来38株、EHEC O157陽性者の家族2株)のPFGEをFingerprinting II (Dice)で解析した結果、85%以上の相同性を示した。

原因の探求:患者の共通食品は飲食店が製造した弁当であったこと、患者・調理従事者の便および弁当からEHEC O157 が検出されたことから、9月20日〜30日に製造された仕出し弁当が原因の食中毒と断定した。しかし、原材料からEHEC O157は検出されなかったため、原因食材の特定には至らなかった。保健所の調査によると、この飲食店は調理器具の使い分けや消毒が徹底されておらず、そのうえ調理後の弁当は温度管理がなされていない場所で約4時間保管されていたことに加え、保冷能力のない運搬車での配達に最大3時間45分の長時間を費やしていたことも判明した。このことから、汚染源は不明であるが、何らかの原因で弁当がEHECで汚染され、保管・運搬中に増殖し、大規模な食中毒に至ったと推測された。さらに弁当を喫食していない患者家族や飲食店従業員は、各々共用するトイレ等を介して家庭や職場内で感染したと考えられた。

本事例は、原因施設が宮城県に所在し、患者発生の第一報が秋田市からであり、当該弁当喫食者の約9割が仙台市という広域食中毒事例であり、その対応に情報共有・地域連携がいかに重要であるかを再認識させられる事例であった。

謝辞:この事例報告にご協力を頂いた仙台市・秋田市の関係者の方々に深謝いたします。

宮城県保健環境センター微生物部
矢崎知子 高橋恵美 佐々木美江 後藤郁男 佐々木ひとえ 加藤浩之 小林妙子
畠山 敬 渡邉 節 菅原優子 谷津壽郎 齋藤紀行

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