保育所で発生した腸管出血性大腸菌O26による集団感染事例−いわき市
(Vol. 29 p. 124-125: 2008年5月号)

1.発生の状況
2007年8月22日(木)市内の医療機関から保育所に通う1歳児が下痢のため来院し、便検査をしたところ、腸管出血性大腸菌(EHEC)O26が検出されたとの情報が保健所にあった。これを受けて保健所では22日子供の家族へ連絡し、子供の現状と経過を確認するとともに、あわせて当該保育所の調査に入り、乳幼児等の健康調査、接触者調査、乳幼児・職員および家族の便検査を実施することとした。あわせて保育所職員と家族への二次感染防止対策を指導した。

2.保育所の概要
この保育所は0歳児〜5歳児までを預かっており、6クラス、定員80名、職員は保育士、調理員等総勢で21名である。さらには当時4名の保育実習生がいた。

施設は6つの保育室、遊戯室、調理室、事務室、休憩室があり3、4、5歳児の幼児室と0、1、2歳児の乳幼児室は遊戯室を間に挟み隔てられている。トイレは幼児エリア、乳幼児エリアにそれぞれ1つずつ設置されている。

また、時期的に毎日プールが行われていたが、幼児用、乳幼児用とプールは別々に設置していた。

3.経過と対応
22日に実施した健康調査により、8月上旬から下痢等の症状を示していた幼児が1、2歳児のクラスを中心に複数おり、また、他のクラスにも同様な症状を示す幼児がいることが判明した。ただ同時期に水痘の小流行も重なっていた。

初発幼児の便培養でO26:H11(VT1)が検出されたこと、喫食状況調査や健康調査等の結果からEHEC O26を原因とする3類感染症であるとみて、感染の広がりの把握とそれに対応する拡大防止を図るため、非発症者を含め乳幼児、職員、さらには発症した乳幼児の保護者の一部の体調不良者についても家庭内での感染状況を把握する必要があると判断し、便検査を実施した。保育所へは一部休園を要請し、その間に施設内の感染防止対策を実施するよう指示した。保護者へは感染防止対策の指導、発症した場合は医療機関を受診するよう勧奨し、さらに関係小学校へは情報提供し、感染防止の対応を要請した。

4.結 果
乳幼児、職員および家族の便検査から、有症状者の多かった1、2歳児を中心に80名中20人、職員25名中1人、それに家族では7家族12人の計33人からO26:H11(VT1)が検出された。

そのうち発症者は乳幼児17人、職員0人、家族2人の合わせて19人であった。

発症状況を整理すると、8月9日、10日に各1人、11日12日に各2人、13日に4人、14日に2人、17日に3人、その後23日、25日、27日にそれぞれ1人、2人、1人となっており(図1)、保健所への連絡のあった日よりおよそ2週間前から始まり、1、2歳児のクラスを中心に急激に広がり、さらに家族へ、また兄弟を通じて他のクラスへと拡大したものと考えられた。

発症者の症状は比較的軽い者が多かったが、一部の幼児では血便も見られた(図2)。

感染経路については特定できなかった。

5.考 察
今回の集団感染事例においては、保育所での感染の広がりがあってから保健所の調査と感染防止対策の指導まで日数がかなり開き、それが乳幼児の25%が感染する事態になった大きな原因と思われる。

水痘の小流行があり、薬剤副作用としての下痢との認識や、症状が比較的軽かったこと、お盆で休んでいた乳幼児が多かったこと等の要因はあったものの、保育所職員、保護者への感染症の認識とその対策について知識の啓発が今まで以上に必要であると痛感した。

いわき市保健所
渡邉香織 馬目淳子 正木恵美子 笹原京子 佐藤 烈

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