長野県内で発生したサポウイルスによる集団感染性胃腸炎の2事例
(Vol. 29 p. 129-132: 2008年5月号)

長野県内北部の保育所および東部の旅館において、過去に2事例のサポウイルス(SV)による集団感染症事例が発生している。それぞれの事例の概要と原因ウイルスの糞便中におけるウイルス量および遺伝子解析結果について報告する。

事例の概要
事例1:本事例は、2004(平成16)年6月15日〜6月18日にかけて長野県北部の保育所で発生した。患者は当該保育所に通う園児139名中17名(12.2%)で、職員21名からの発症者は認められなかった。クラスごとの患者の発生にはばらつきが認められ、年齢の低いクラスの発症率が、年齢の高いクラスの発症率に比べ低い傾向にあった(表1)。また、初発患者の存在したDクラスよりも4歳児のクラス(A、B)の発症率が高かった。

主な臨床症状は嘔吐14名(82%)、腹痛11名(65%)、下痢10名(59%)、発熱8名(47%)などであった。嘔吐の回数は、14名中8名が3回以下で治まっていた。下痢は13名中9名が軟便にとどまり、水様性下痢を呈したのは3名のみであった。発熱は8名中6名が37℃台で、38℃以上の患者は2名であった。ノロウイルスによる感染症患者の臨床症状に比べ、全般的に軽い傾向がみられた。

日別の患者発生状況は、6月16日の午後をピークとする一峰性を示していた(図1)ことから、何らかの単一曝露が疑われた。しかし、年齢あるいはクラス別の発症率に偏りがあったこと、全体の発症率も12.2%と比較的低いこと、調理従事者3名の便がRT-PCR法によりSV陰性であったことなどから、同一の飲食物を介した感染症(食中毒)とは考えにくかった。また、聞き取り調査による初発患者はDクラスの3歳児であったものの、発症率の高かったのは4歳児のAおよびBクラスであったこと、当該両クラスに挟まれるようにトイレが位置していた(図2)ことなどから、何らかの理由でトイレがSVに汚染され、そこから感染が広がった可能性も示唆された。

本事例は長野県内で初めて確認されたSVによる感染性胃腸炎の集団事例であった。

事例2:2事例目は、2007(平成19)年7月22日〜7月26日にかけて長野県東部の旅館で発生した。患者は当該旅館に合宿のため宿泊していた高等学校のサッカー部生徒および引率者45名中28名(62.2%)であった。学年別の患者の発生には偏りが認められ、初発患者を含む2年生の発症率が他の学年に比べ高かった(表2)。

発熱22名(79%)、嘔気18名(64%)、頭痛14名(50%)、嘔吐12名(43%)が主な臨床症状であった。嘔気の発現率は50%を超えていたが、嘔吐、下痢、腹痛等の胃腸炎症状の発現頻度が低く、発熱や頭痛の頻度が高かったことが臨床症状の特徴であった。

日別の患者発生状況は、旅館到着前の7月22日午前中に初発患者が発生し、その後7月25日の午後をピークとする一峰性であった(図3)。疫学調査の結果、生徒達は練習中にスポーツドリンクの回し飲みを行っていた、往路バス内において初発患者の座席付近に座っていた生徒に患者が集中していたことが判明した。以上から、合宿前に発症した初発患者から他の生徒達に感染が広がったものと考えられた。

SVの検査結果:SVはYanら1)の方法に準じ、SV5317およびSV5749プライマーを用いてRT-PCR法で検出した。さらに、一部の陽性検体についてはOkaら2)の報告したReal-Time RT-PCR法により定量を試みた。その結果、事例1のケースでは糞便1g当たりSVが1.36×107〜1.05×1011copiesの範囲に分布し、事例2のケースでは糞便1g当たり8.04×107 〜1.27×1010copiesの範囲に分布した(表3)。

SVの遺伝子解析:事例1の7株および事例2の4株について、ダイレクトシークエンス法を用いゲノム3´側約2,260塩基(サブゲノム全長領域に対応)を決定し、Hansmanら3)の参照株を用いNJ法による系統樹解析を実施した。その結果、事例1由来株はHu/Dresden/pJG-Sap01/DE(AY694184)に類似し、遺伝子型GIに、事例2由来株はHu/Angelholm/SW278/2004/SE(DQ125333)に類似し、遺伝子型GIVに分類された(図4表3)。

事例1の7株の相同性を検討したところ、1株のみC-T変異が1カ所認められたが、アミノ酸配列の変異を伴っていないことから、すべて同一由来の感染と考えられた。

事例2の患者由来2株と非発症調理従事者由来2株は、塩基配列が完全に一致していた。患者由来株と従事者由来株の塩基配列には3カ所の変異が認められた。これらのうち2カ所についてはアミノ酸配列変異を伴っており、由来が異なると考えられた。当初本事例は、患者グループの排出した嘔吐物および下痢便によって汚れた洗面所やトイレを清掃した従事者が不顕性感染したと推察していた。しかし、患者由来株と従事者由来株のカプシドのアミノ酸配列が異なることが明らかとなったことから、偶然に、由来の異なるSVが同時期に患者グループと従事者グループにおいて、それぞれ別々に流行したことが示唆された。

 参考文献
1) Yan H, et al ., J Virol Methods 114: 37-44, 2003
2) Oka T, et al ., J Med Virol 78:1347-1353, 2006
3) Hansman GS, et al ., Emerg Infect Dis 13: 1519-1525, 2007

長野県環境保全研究所保健衛生部
吉田徹也 粕尾しず子 畔上由佳 宮澤衣鶴 小林正人 白石 崇
国立感染症研究所ウイルス第二部第一室
岡 智一郎 片山和彦 武田直和

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