ロタウイルス集団感染事例−静岡市
(Vol. 29 p. 132-134: 2008年5月号)

2007年4月に静岡市内で二つのA群ロタウイルス集団感染が発生したので、その概要を報告する。

事例1
発生場所:静岡市内の特別養護老人ホーム。入居者:119名(一時的入居者を含む。平均年齢82歳)、職員:27名。構造:2階建。入居室:ほとんどが2人部屋、他に1人部屋、多人数部屋有り。

経過:この施設で、4月17日に1階の入居者の1名が嘔吐し、翌日には症状はほぼ治まった。しかし、これが最初の発症者となり、20日から毎日数名ずつ嘔吐または下痢を訴える患者が発生した。初期には最初の発症者の同室や隣室に患者が発生していたが、やがて離れた居室や2階にも患者が発生した。下痢はほとんどの発症者が水様性で、発熱はほとんどの発症者が38℃以下の微熱であった。症状が重く、点滴治療を受ける者や病院に移送される者もあった。22日には職員1名も発症し、この施設は、保健所に嘔吐または下痢を訴える入居者が増えているとの連絡を入れた。同日保健所が調査に入り、翌日一部の患者の便と嘔吐物を回収した。この後もほぼ毎日数名ずつ発症し、5月4日の発症者が最後となり、その後事態は終息に向かい、5月13日にはすべての発症した入居者が回復した。最終的に、確認された発症者は入居者31名、職員1名の計32名となり、この施設の発症者の分布は図1および図2のようであった。また、最初の発症者が出てから終息までの入居者の発症者数と患者数の推移は、図3のようであった。

検査:保健所が採取した、20日〜22日にかけて発症した入居者1名の嘔吐物と5名の便に対して行った。固形物が比較的多い便は、通常どおりPBSで希釈してからRNA抽出をし、水様便は、希釈せずにそのまま抽出した。嘔吐物は採取量が極めて少なかったため、PBSを少量加えて抽出した。症状等からノロウイルスを疑ったが、検出されなかったため、「ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版)」に沿って、A群ロタウイルスのRT-PCR検査法で検出を行った結果、嘔吐物以外のすべての便から遺伝子が検出され、型別のPCR で検出された遺伝子はすべてG9型と判定された。

考察:この事例は最初の発症者の居室を中心に感染が拡大したと推測される。発症者の中には認知症のため徘徊する者もいること、職員は入居者の担当は決まっていないことなど、行き来が自由であるため、離れた場所にも散発的に発症者が出ている原因になっているように思われた。

事例2
発生場所:静岡市内の小学校。構成:1年〜6年まですべて5学級ずつ有り。児童数:全校児童数1,078人(1学級の児童数は33〜39人)。

経過:保健所の調査は4月26日に入った。2年生の1学級で、34名中12名の児童が嘔吐または下痢の症状を呈し、欠席または早退をしていた。これらの児童の一部は微熱があった。この学級の教室内での発症者の分布は、図4のように比較的互いに近接した席であった。調査時この学級以外で、下痢または嘔吐等の胃腸炎症状のある児童は、10名ほどいたが、違う学級の児童であり、この学級の嘔吐下痢症と関係はないものと判断された。保健所は、検体として、発症者の出た教室の扉4箇所のふき取ったもの、早退児童の嘔吐物を処理したぼろ布およびこの教室の掃除用雑巾を採取した。

検査:保健所が採取した上記検体を超遠心により濃縮した後、RNA抽出をし、事例1と同様に行った。ただし、ぼろ布と雑巾は少量のPBSを加えた後、その絞り液を検体とした。その結果、嘔吐物を処理したぼろ布からA群ロタウイルスG9型遺伝子を検出した。

考察:過去にもしばしばこのような小学校等の一過性集団嘔吐下痢症は発生しているが、児童の人権等の配慮から学校側が詳しい調査に難色を示すことが多く、ふきとり等の個人が特定されない検体で検査するしかなく、ほとんどが原因不明となった。この事例でも、症状があまり強くなく、すぐに終息に向かったため小学校側もこれ以上調査を望まず、便の検査ができなかったが、嘔吐物を処理した布からの検出で原因を判断することができた。今回は間接的ではあるが、患者に関する検体が取れたことが検出につながったと思われ、このような検体からも検出が可能であることがわかったので、検出の可能性が小さい検体であっても可能な限り検出を試みるべきだと思われた。

静岡市環境保健研究所
井手 忍 山口正樹 清水浩司郎 稲葉正治
静岡市保健所保健予防課予防担当

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る