英国で感染したと思われる肺と肝臓に巨大嚢胞を形成した単包虫症の邦人の1例
(Vol. 29 p. 134-134: 2008年5月号)

エキノコックス症には、本邦では北海道で流行が見られる多包虫症と輸入寄生虫症として年間数例報告されている単包虫症とがある。今回、我々は本邦では報告の少ない単包虫症の邦人例で、感染地として英国が疑われ、肺と肝臓に巨大嚢胞を形成し、治療に難渋した1例を経験したので報告する。

症例は38歳女性。2002(平成14)年5月より英国ロンドンに在住。英国ではEnglandとWalesから年間8〜9例のヒト単包虫症例が報告されており、患者はEnglandとScotlandには何度か小旅行しているが、Walesは訪れていない。また、単包虫症の流行地である南米、中近東や中国にも訪問したことはない。2006(平成18)年11月頃より咳嗽と右胸側部痛出現し、近医受診し上気道炎として鎮咳薬、鎮痛薬等の処方を受けていた。2007(平成19)年11月帰国し、症状が持続していたため胸部X線を撮影したところ、右肺に巨大腫瘤を認め(図1)、CTによる精査の結果、右下肺と肝臓右葉に各々長径10、12cmの嚢胞を認めた(図2図3)。エキノコックス症が疑われ、Western blot法による血清検査で単包虫症陽性との確診がついた。2臓器に存在する巨大嚢胞のため、2008(平成20)年2月8日よりアルベンダゾール内服を開始し縮小を試みたところ、2月下旬より肺嚢胞のみ変形し一部空泡混入、口腔内の異味感出現し、気管との交通所見が出現した。末梢血の好酸球は3,700cells/μl、IgEは23,000IU/mlまで上昇。3月17日、肺嚢胞含む右下葉切除術(中葉部分切除、図4)、肝嚢胞直視下ドレナージ・洗浄術を施行した。嚢胞内容液より虫体(包虫砂)が検出され(図5)、遺伝子解析により単包条虫Echinococcus granulosus (=G1、sheep strain)であることが判明した。術後経過は良好である。

琉球大学大学院医学研究科分子病態感染症学(第一内科)
屋良さとみ 仲村 究 原永修作 井濱 康 日比谷健司 田里大輔 玉寄真紀 山城 信
比嘉 太 健山正男 藤田次郎
琉球大学医学部医学科機能制御外科学(第二外科) 平安恒男
琉球大学医学部医学科熱帯寄生虫学 當真 弘

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