2007年度の北海道における麻疹発生状況
(Vol. 29 p. 128-129: 2008年5月号)

2007年4月下旬から北海道内各地で麻疹報告数が増加した。同年9月には報告数が減少したため沈静化すると思われたが、10月下旬から再び地域的に報告数の増加をみた。2008年に入っても減少傾向は認められず、第5週(1/28〜2/3)には75例となり、それ以降は週当たり32〜59例の麻疹患者数の報告をみた。

患者発生状況:2007年12月31日までの麻疹患者数は定点医療機関から320例、定点以外の医療機関から520例、合計840例であった。定点医療機関以外の報告数は、同年5月から関係医療機関の協力のもと、保健所の積極的疫学調査により情報収集を行った結果も含まれる。2008年からは全数報告になり、2008年第14週(4月6日)現在、511例の報告をみている。2007年度における罹患年齢については10〜14歳24.5%、15〜19歳24.3%と、10代で48.8%を占めた(図1)。

ウイルス学的試験:2007年度に医療機関で採取された咽頭ぬぐい液40検体のうち、28検体から麻疹ウイルス遺伝子を検出した。ダイレクトシークエンス法でNP遺伝子の塩基配列を決定して、C末端450塩基について分子系統樹解析および相同性解析を行った。その結果、すべての遺伝子型がD5型であり、検出したウイルス遺伝子間の相同性は99.5〜100%であった。また、2007年に群馬県で検出したD5型と同一のクラスターに分類され、相同性は98.5〜99.1%であることから、北海道で流行している麻疹ウイルスは日本各地で検出されているウイルスとほぼ同じと考えられた(図2)。

ワクチン接種状況:2007年度(2008年第14週まで)の1,351症例についてワクチン接種歴を調査した(図3)。その内訳は、ワクチン既接種者406例(30.1%)、ワクチン未接種者671例(49.7%)、ワクチン接種歴不明者274例(20.3%)であった。ワクチン既接種者の罹患率は20代後半までは増加傾向にあるが、麻疹ワクチン定期接種以前の世代になるとワクチン既接種者の罹患率が減少していた。なお、1歳児の患者におけるワクチン接種率は31.7%と高率であった(図4)。しかし、このような事例については、医療機関での感染や家族内における患者発生によりワクチンを接種したが、発病予防には間に合わなかったケースもあると思われた。また、2006年から麻疹・風疹(MR)ワクチンの2回接種が開始されたが、今回の調査において小学校就学前に第2期接種を終えた7歳児の麻疹患者数は12例(1.0%)であり、20歳以下では最も少ない患者数であった。さらに、2006年度に実施された国立感染症研究所による第2期ワクチン接種調査において北海道は80.9%であったことから1)、2回接種の有効性が示唆された。

2008年4月から5年間限定で、中学校1年生相当の第3期、高等学校3年生相当の第4期定期ワクチン接種が加えられた。また、大学等では入学前に抗体価の検査およびワクチン接種を求めているところもみられる。1歳児における第1期ワクチンのみならず、第2期以降のワクチン接種率の向上が、麻疹患者数を減少するのに重要である。また、乳幼児(2歳未満)の患者数が多かったことから、これらの年齢層に対する方策についても考慮する必要がある。

 参考文献
1)上野久美, 他, http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3323.html

北海道立衛生研究所 地主 勝 長野秀樹 工藤伸一 横山裕之 中野道晴 岡野素彦
北海道保健福祉部健康推進課 田邊寛樹(現食品衛生課) 山口 亮
札幌市衛生研究所 矢野公一

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