わが国のエイズ対策は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)」第11条第1項の規定に基づき作成された「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」(以下、「エイズ予防指針」という)に沿って講じられてきた。この「エイズ予防指針」は、少なくとも5年ごとに再検討を加えることになっており、2006(平成18)年3月に抜本的な見直しが図られ、同年4月1日から新たな「エイズ予防指針」が施行された。現在は、改正後の指針に基づき、国と地方の役割分担のもと普及啓発および教育、検査・相談体制の充実、医療提供体制の再構築に取り組んでいる。
新たな「エイズ予防指針」は、(1)エイズが「不治の特別な病」から「コントロール可能な一般的な病」へと疾病概念が変化したことを踏まえて施策を展開すること、(2)国と地方公共団体の役割分担を明確化し、都道府県等が中心となって普及啓発、検査、医療体制の再構築を図ること、(3)近年のHIV・エイズの動向を踏まえ、同性愛者や青少年に重点をおいた普及啓発や、都道府県レベルの中核拠点病院の整備など、施策の重点化・計画化を図ることの3点を基本的な考え方としている。
また、この「エイズ予防指針」では、施策の実施を支える新たな手法として政策評価を踏まえた施策の実施が求められており、国は、国や都道府県等が実施する施策の実施状況等をモニタリングし、進捗状況を定期的に情報提供し必要な検討を行うとともに、感染者・患者の数が全国水準より高い等の地域に対しては、所要の技術的助言等を行うことが求められている。
これを受けて、厚生労働省では、「エイズ予防指針」に基づく施策の推進状況について専門的な評価および検討を行い、以後の施策推進に対する意見を聴取することを目的として、「エイズ施策評価検討会」を設置し、策定されたモニタリング指標に基づいて2007(平成19)年度モニタリングを実施した。
具体的なモニタリング項目の概要を表1に示す。モニタリング項目としては、エイズ発生動向調査によるHIV感染者・エイズ患者の報告数、感染者・患者報告総数に占めるエイズ患者の割合(以下、「新規患者割合」という)等を施策の前提となる項目として設定(モニタリング項目1)、個別施策層に対する普及啓発の実施状況、検査・相談件数、医療提供体制の整備状況等を「エイズ予防指針」に基づく施策の実施状況の指標として設定(モニタリング項目2)、エイズ対策予算の指標をモニタリング項目3として設定している。
これらのモニタリング項目のうち、近年、エイズを発症して初めてHIVに感染していることが明らかとなるエイズ患者が多いこと、すなわち「新規患者割合」が高いことが問題点として指摘されている。これは早期に検査を受ける者が少ないことが原因の1つと考えられている。実際、2006(平成18)年度「新規患者割合」を都道府県別に比較すると、新規HIV感染者・エイズ患者報告数が全国平均より多いことから「重点都道府県*注」に選定されている東京都・大阪府においては、HIV検査件数が多く、「新規患者割合」がそれぞれ21.8%、15.7%であるのに対し、その近県の検査件数は東京都・大阪府に比べて少なく、「新規患者割合」も40〜50%と、全国平均の約30%と比べても高率であった。
しかしながら、今回のモニタリングによれば、たとえば、東京都・大阪府と各近隣府県の「新規患者割合」について平成18年度と19年度を比較すると、検査件数の大幅な増加とともに、大部分の府県において「新規患者割合」が減少していることが明らかとなり、検査・相談体制の充実に関して一定の成果が上がっていることが把握された(図1)。
このモニタリングによって、それぞれの自治体において、普及啓発・検査体制等の実情を客観的に評価し、重点的に取り組むべき課題を明らかにすることで、より地域の実情に即した効果的なエイズ施策を実施することが可能になると考えられる。「エイズ予防指針」の改正に伴い、平成18年度より新たに設定された「HIV検査普及週間」とともに、このモニタリングの仕組みを十分に活用することで、より効果的・効率的なエイズ対策が推進されることを期待したい。
*注:近年、関東地方以外の地方の大都市においてもHIV感染者・エイズ患者が増加傾向にある状況を踏まえ、今後、より効果的なエイズ対策を進めるため、重点的に連絡調整すべき都道府県等として16の自治体(10都道府県および6政令指定都市)を選定した。選定にあたっては、(1)過去3年間の新規HIV感染者・エイズ患者合計報告数の平均の人口10万人に対する割合が、全国平均以上の都道府県および当該都道府県内の政令指定都市、もしくは(2)HIV感染者・エイズ患者の報告数が著しく多い地域とした。
厚生労働省健康局疾病対策課 石川直子