2008年第7週(2/11〜17)〜第13週(3/24〜30)に大阪府内から麻しんと診断された2家族、7例のうち、3例からH1型麻疹ウイルスを検出したので詳細を報告する。
患者発生状況
第1事例
症例1:36歳男性。2月15日から発熱(39.3℃)、鼻汁、結膜充血、19日から発疹が出現し、臨床症状から麻疹と診断された。この症例では実験室診断は行われなかった。
症例2:9カ月女児。上記症例1の子で、父親の麻疹診断直後の2月20日に緊急ワクチン接種が行われた。26日から発熱(38.8℃)、咽頭発赤、咳、眼脂がみられ、29日には発疹が出現した。3月7日に咽頭ぬぐい液と血液が採取され、ウイルス学的検査に供された。
症例3:34歳女性。症例1の配偶者で、2月27日より発熱、咳、頭痛、嘔気、3月3日から発疹がみられた。麻疹ワクチン歴は不明、罹患歴はなく、2月27日の血清では麻しんIgG抗体は陰性、29日の血清ではIgM抗体も陰性であった。症例2と同様に、3月7日に咽頭ぬぐい液と血液が採取され、ウイルス学的検査に供された。同日の血清IgM抗体はEIA法にて5.8(陽性判定基準値>1.2)と上昇がみられた。
症例4:38歳女性。症例3の姉。3月8日から発熱。その後発疹も出現し、臨床的に麻しんと診断された。3月17日の麻疹IgM抗体は6.2で陽性であった。
第2事例
症例5: 2歳3カ月男児。ワクチン接種歴なし。3月8日から発熱(38.3℃)、 咳、鼻汁、咽頭発赤を認めた。12日から発疹が出現し、13日発疹融合するも37℃に解熱した。3月13日に咽頭ぬぐい液が採取されウイルス学的検査に供された。3月15日の血清の麻疹IgM抗体は9.8と陽性であった。
症例6:3歳男児。症例5の兄でワクチン接種歴はない。3月15日から発熱、 咳、19日から発疹。臨床症状から麻疹と診断された。
症例7:8カ月女児。症例5の妹。3月16日から発熱、咳、20日から発疹がみられ、臨床症状から麻疹と診断された。
ウイルス学的診断
症例2、3、5の咽頭ぬぐい液および血液から抽出したRNAを用いてRT-PCRを行った結果、すべてのサンプルで麻疹ウイルスのNPおよびHA遺伝子の増幅がみられた。同時に検体からB95a細胞を用いたウイルス分離を試みた結果、症例2の血液から麻疹ウイルスが分離された。
PCRにより症例2、3、5の患者検体から増幅されたNP遺伝子3´末端領域の部分配列はすべて一致し、系統樹解析によりH1型麻しんウイルスと同定された(図1)。これらの配列をBLAST検索した結果、EU368828(MVs/Hong Kong.CHN/36.07/1[H1])と100%の相同性を示した。
感染経路
第1事例の発端者である36歳男性には海外渡航歴はないが、職業上の理由から関西国際空港に出入りしていたとのことである。しかし麻疹患者との接触の有無は不明で、感染源は明らかではない。症例5は保育所等への通園歴もなく感染源は不明で、第1事例の家族との明らかな接触も認められなかった。
2007年以降に当所で麻疹ウイルスを検出した24症例は、すべてD5型ウイルスによるものであったが、今回の3症例では初めてH1型ウイルスが検出された。日本国内で2007年以降に検出された麻疹ウイルスは主にD5型で、H1型ウイルスは中国で感染したと考えられる1症例で報告されたのみであった。今回検出されたウイルスは、そのNP遺伝子の部分配列が2007年に香港で検出されたH1型麻疹ウイルスの配列と完全に一致しており、ごく最近国外から大阪府内に持ち込まれたウイルスである可能性が考えられた。また、接触の明らかではない複数の家族から患者発生があったことから、H1型ウイルスが地域流行している可能性も示唆され、今後同地域のH1型麻疹ウイルスの感染拡大を監視していく必要があると考えられる。麻疹流行地域からの人の移入がおこる国際空港などの施設周辺では積極的に麻疹の実験室診断を行い、麻疹ウイルス移入状況を把握する必要があると思われる。
大阪府立公衆衛生研究所 倉田貴子 宮川広実 加瀬哲男 高橋和郎
古谷こどもクリニック 古谷悦美