H5N1感染症の国内への侵入防止に対する検疫所の対応(空港・海港における「水際対策」)
(Vol. 29 p. 182-183: 2008年7月号)

今回の法改正に伴う検疫における取り扱いは、鳥インフルエンザ(H5N1)については、これまでと同様(検疫法に基づいて検査が可能な検疫感染症)であるが、新型インフルエンザ等感染症(以下、「新型インフルエンザ」という)については、隔離・停留等の対応を行える検疫感染症としての法的整備がなされた。

以下、検疫所における新型インフルエンザへの対応(空港・海港における「水際対策」)について述べる。

1.水際対策の目的
「新型インフルエンザ対策ガイドライン(フェーズ4以降)」では、水際対策は「国外からの流入阻止:入国者への検疫強化」とし、国内における医療対応、社会対応とともに対策の柱としている。現段階では、新型インフルエンザの感染力や潜伏期間が不明確であること、発生国・地域(以下、「発生国」という)によっては非常に多くの入国者が想定されること等を考えると、水際で完全に流入を阻止することはかなり難度の高い課題であるが、入国者が地域内で発症することを最大限に防止し感染拡大のスピードを遅らせることは、ワクチン供給等の対応体制が整備されるまでの期間を確保する上で大きな意義を有する。

2.法改正の主なポイント
(1)検疫感染症としての位置づけ
乗客等に対し、隔離、停留、健康監視およびそれに必要な調査等の対応を法律に基づいて行えるようになった。

(2)停留場所の宿泊施設等への拡大
停留については、多くの対象者が他者との接触を回避して長期間にわたる生活を余儀なくされることが想定されることから、多くの者が個別に生活できる環境が整っているホテルの客室等を停留場所とすることが可能とされた。一方、施設の使用方法やサービスの提供方法等、今後解決していくべき課題が多く残されている。

(3)都道府県知事(地方自治体:保健所等)との連携
健康監視は、これまでは検疫所が直接行ってきたが、新型インフルエンザについては、同時に多くの対象者に対して迅速できめ細かな対応を行う必要があることから、対象者が入国した段階で保健所等に通知し、その後の対応は保健所が行うこととされた。大量の情報を迅速かつ確実に全国の保健所等へ提供するため、現在、「NESID(疑い症例調査支援システム)」を用いた情報共有システムの構築が進められている。

3.新型インフルエンザ発生時の対応参照)
水際対策においては、渡航自粛や現地での対応、航空機や船舶の運航調整等、多くの関係機関において対応が行われ、互いに連携を図ることが必要であるが、ここでは主として検疫所が行う対応を述べる。

(1)検疫強化の決定
WHOや主要国の動向(WHOがフェーズ4を宣言等)を踏まえ、政府対策本部(本部長:内閣総理大臣)により、発生国から来航する航空機・客船(以下、「直行便」という)の運航調整、直行便の検疫を行う空港・海港注)(以下、「集約空港等」という)の集約、発生国の出入国者の自粛等が直ちに決定される。

注)発生国からの航空機を集約する空港:成田国際空港、中部国際空港、関西国際空港、福岡空港
 発生国からの客船を集約する海港:横浜港、神戸港、関門港

(2)直行便に対する検疫
1)事前通報:検疫所は、直行便が集約空港等に到着する前に直行便から有症者の有無について報告を受け、有症者がいる場合は座席移動やマスクの着用、検疫に関する説明等を要請する。

2)機内(臨船)検疫:集約空港等に到着し次第、検疫官が乗り込んで乗客等全員の検疫を実施する。

3)対象者の選定:乗客等の健康状態、座席の位置、現地での行動等から、対象者を以下の3つに選別する。

ア.隔離対象者:新型インフルエンザの患者
イ.停留対象者:現地等において患者と行動をともにしていた者(家族、同行者等)
 患者と濃厚に接触した可能性がある者(座席の近い者、対応した乗務員等)等
ウ.健康監視対象者:有症者が搭乗していない直行便では、乗客等全員
 有症者が搭乗していた直行便では、隔離、停留の対象者以外の乗客等全員

4)各対象者への対応
 ア.隔離:感染症指定医療機関に搬送し、入院治療を行う。
 イ.停留:停留施設へ移送し、ホテル等の個室で10日間の経過観察を行う。
 ウ.健康監視:新型インフルエンザに対する知識や健康監視における指示等を行い、自宅(あるいは滞在予定場所)において外出自粛を要請し経過観察を行う。

5)航空機、船舶への対応
有症者が搭乗していた航空機等は、消毒を行った上で機体等の使用を許可する。

(3)直行便以外で発生国から入国する乗客等への対応
発生国に滞在した者が第3国を経由して入国する場合も想定されるため、自己申告、航空会社等からの乗客情報および入国管理局からの通報等により対象者を把握し、直行便の乗客等と同様の対応を行う。

なお、国内での感染拡大が著しくなった場合には、検疫は通常に戻し国内対策に重点を移すこととなる。

上記対応については、発生国の空港等で感染を受けるリスクが高まる可能性もあることや、停留施設等のcapacityがオーバーすると適切な対応ができないこと等から、現地での感染予防対策を確実に行うことを前提に計画的かつ安全な帰国手段を確保すること等についても、さらに検討が行われるべき課題である。

今後、法改正や新たな知見の集積、関係省庁等における検討・調整等に伴って前述のガイドラインの見直しや対応の変更が行われる可能性があるが、新型インフルエンザが発生した際の被害を最小にするためには、水際対策のみならず、事前・事後の国内・国外における重層的な対応と、何よりも国民全体がこれらの対応の必要性を理解し行動することが重要で、今後とも国民および関係者の共通認識をさらに醸成していくことが必要である。

成田空港検疫所 藤井紀男
神戸検疫所 内田幸憲
厚生労働省健康局結核感染症課 三宅邦明

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