現在の韓国における高病原性鳥インフルエンザの状況
(Vol. 29 p. 185-187: 2008年7月号)

本(2008)年4月3日、韓国において高病原性鳥インフルエンザの発生が確認され、4月4日、外交ルートを通じ、日本へ報告があった。以降、本病の感染は拡大を続け、ほぼ韓国全土に広まった。本稿では2008年6月26日現在の韓国の発生状況、防疫措置、および韓国での発生に伴うわが国の防疫対応の概要について報告したい。

1.発生状況の概要
4月3日、全羅北道金堤(キムチェ)市の採卵鶏農家(15万羽飼養)で高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の発生が確認され、4月4日、日本へ報告された。その後5月14日までに総計33例の高病原性鳥インフルエンザの発生が確認された(表1図1)。

2.韓国における防疫措置等の概要(韓国政府公表資料等で確認できたもの)
○4月2日、金堤市の鳥インフルエンザの疑いがある鶏が確認されたことをうけ、当該農場の鶏、鶏卵の移動を制限。

○金堤市の疑い例の鶏が高病原性鳥インフルエンザであると判明し、韓国政府は発生農場の半径500mの農場(7戸30万8千羽)を対象に殺処分、および卵等の汚染物品の廃棄を行い、半径10km以内の鶏、アヒル飼養農家を対象に移動制限。

○防疫対策本部を設置し、疫学調査チームを派遣。

○井邑市の新たな発生を受けて防疫地域の鶏、アヒルに対して防疫措置を強化。
 ・殺処分範囲を半径3km(危険地域)まで拡大し、全羽処分。
 ・半径3km〜10km(警戒地域)のアヒルを予防的殺処分(累計羽数236万8千羽)。

○9例目の発生より全羅南道・北道は「注意」段階から「警戒」地域に変更。

○鳥インフルエンザ発生地域の家きん類生産農家に対する生計支援策実施を発表。
 ・殺処分農家へ殺処分補償金、生計資金、家畜導入費の低金利での融資。
 ・移動制限農家へ所得減少の一部を所得安定資金として支援、生産物の政府買い入れの検討。
 ・経営被害を受けたと殺場、孵化場等に対して被害程度により経営資金を低金利で融資。

○京畿道(12例目)の発生を受けて全土の鳥インフルエンザに対する国家警戒レベルを4段階のうち2番目に高い水準「警戒」へ引き上げ、すべての地域に対策本部を設置。また、防疫作業に韓国軍兵士の動員を開始。

○9の獣医科大学の協力(1次検査)を得て、全国アヒル農場の一斉検査を開始。累計殺処分羽数は485万5千羽。

○アヒル農場一斉検査推進の補完として既存の抗原検査に加え、抗体検査を追加。引き続き危険地域の殺処分などの防疫措置継続。

○ソウル区役所の発生(25例目)に伴い在来市場に対する販売車両消毒、移動制限等の防疫措置。学校など公共機関設置の家きん飼育施設に対する出入り制限および消毒・予察を実施。

○全国鶏・アヒル農場一斉検査および予察・消毒の定例化。在来市場等の家きん類の予防的殺処分推進。

○霊岩郡、井邑市、淳昌市などが危険地域から警戒地域へ転換(最終殺処分から3週間後)。

○警戒地域から防疫地域への転換のための検査準備。
 ・警戒地域に転換した10日後、地域内の鶏(臨床検査、必要な血清検査)とアヒル(血清およびウイルス検査)に異常がない場合、移動制限解除。

○5月16日、疫学調査委員会が中間報告を行い、分離されたウイルスの遺伝子分析の結果、初期に発生した5カ所(金堤、井邑、霊岩、論山、平沢地域)のウイルスは同一であることを確認。また、インドネシア、ベトナムで流行している人体由来のウイルスとも、2003年、2006年度に韓国で分離されたウイルスとも違うことを確認。

○5月21日、日本において野生のオオハクチョウから分離されたウイルスと今回のウイルスの遺伝子を比較した結果、非常に関連性が高い(すべての遺伝子分節で99.7%以上の相同性)ことを報告。

○TV、ラジオ、インターネット等で鶏・アヒル肉安全性のPRを実施。

○33例目以降の新たな発生がないため、防疫措置を着実に進め、検査結果に従い徐々に移動制限解除が行われ、6月18日現在、警戒地域は釜山市江西区・機張郡、慶尚北道の3地域を残すのみ。

○なお、鶏、アヒルの殺処分羽数の数は累計約700万羽(5月22日現在報告)以上に及んだ。

3.農林水産省の対応
農林水産省は韓国より初発生の報告を受けた4月4日より、動物検疫所および各都道府県に対して、下記事項の再徹底について通知し、国内防疫の強化を図っている。

(1)水際における防疫措置の徹底(動物検疫所)
 ・空海港における靴底消毒、車両消毒の徹底。

(2)飼養衛生管理の徹底(全都道府県)
 ・野鳥の鶏舎等への侵入防止、農場出入り口での消毒の徹底、異常発見時の早期通報等。

(3)的確な病勢鑑定の実施(全都道府県)
 ・異常家きんの通報があった場合の必要な病性鑑定の実施。

(4)危機管理体制の点検(全都道府県)
 ・早期発見、早期通報等の危機管理体制の再点検の実施。

また、5月21日に本国で野生のオオハクチョウより分離されたウイルスが韓国で分離されたウイルスと関連性が高いことを報告。

4.終わりに
韓国では初発生後、一月あまりで全土に感染が拡がる事態になった。比較的鳥インフルエンザに耐性の強いアヒルでの発生が多かったこと、移動制限が遵守されなかったことなどが原因と言われているが、結論を出すには詳しい調査、分析の結果が必要だと思われる。 わが国に幸い飛び火しなかったのは、前述したような各飼養農家での的確な飼養衛生管理の徹底をはじめ、水際防疫等、本病の侵入防止に努めた現場の尽力によるところが大きい。敬意を表し、感謝したい。

しかし、いまだ、アジアおよび世界における本病の発生は継続しており、気を緩めることなく防疫体制を継続していかなければならない。

農林水産省消費安全局動物衛生課

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