麻疹・風疹全数把握疾患への改訂と定期麻疹風疹予防接種第3期・4期の追加
(Vol. 29 p. 189-190: 2008年7月号)

麻疹と風疹は、2007年まで感染症法に基づく五類感染症定点把握疾患であり、全国約3,000カ所の小児科定点から毎週、患者数が報告されていた。成人麻疹(2006年4月以降15歳以上)も同様に、全国約450カ所の基幹定点から患者数が報告されていた。一方、麻疹・風疹関連で全数把握の対象であったのは、先天性風疹症候群と、両疾患に合併した急性脳炎のみであった。

2006年春に、麻疹の地域流行が茨城県南部(IASR: 28: 251-252, 2007)、千葉県(IASR 27: 226-227, 200627: 227-228, 200627: 228, 2006)で発生した。茨城南部の流行は夏季に終息したが、千葉での流行は継続し、埼玉県、東京都に拡大した。2007年初めから、患者数はさらに増加し、高等学校や大学が麻疹により相次いで休校した。その後、南関東地域を中心とする大規模な流行へと発展した。5月の連休で人の移動が盛んになると、流行地域で麻疹ウイルスに感染した者が潜伏期を経て各地で麻疹を発症し、全国流行となった(IASR 28: 239-240, 2007)。2007年4〜7月の麻疹による休校数は、保育所・幼稚園2カ所を含む273校となった(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/measreport/measreport07.html)。これを受けて、麻疹含有ワクチンの接種希望者が急増し、ワクチン不足となり、麻疹に対する抗体測定用検査試薬も不足するなど、社会的な混乱に発展した。国内で麻疹ウイルスに感染後、国際スポーツ大会や修学旅行などで麻疹排除国に渡航し、渡航先で発症した小学生、高校生が公的機関の報告書1)や海外メディアに取り上げられ、国際的な問題にも発展した。

高等学校・大学の年齢で患者が発生すると、小児科定点からの報告では、国内流行の実態は十分に把握できなかった。基幹定点は数が少ないため、成人麻疹の流行規模は把握困難であった。そこで、国立感染症研究所感染症情報センターでは、定点サーベイランスを補足し、迅速な麻疹対策に資することを目的に、2006年5月12日から、有志の医師による任意の麻疹患者報告システム(麻疹発生DB)の運用を開始した2)。法律に基づく全数把握が始まるまでの1年半、麻疹患者の年齢分布や予防接種歴などをもとに、国や各自治体の麻疹対策に利用された。

麻疹流行の迅速な把握と対策、さらに麻疹排除に繋げるには、予防接種歴や症状を含めた検査室診断に基づく全数把握の必要性が認識され、2007年末、国を挙げた麻疹対策が始まった。同年12月28日に、感染症法第十一条第一項および予防接種法第二十条第一項の規定により「麻しんに関する特定感染症予防指針(厚生労働省告示第四四二号)」(以下、予防指針)が告示され、2008年から適用された(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/kokuji442-191228.pdf)。告示では、「麻しんの感染力及び重篤性並びに流行した場合には社会に与える影響等にかんがみると、行政関係者や医療関係者はもちろんのこと国民一人一人がその予防に積極的に取り組んでいくことが極めて重要である。」と述べられ、2012年度までに国内から麻疹を排除しその状態を維持することが目標に掲げられた。

予防指針に基づき、2008年から麻疹と風疹は、五類感染症全数把握疾患となり、麻疹を診断した医師すべてが7日以内に保健所に届け出る義務を有する。ただし麻疹に関しては、より迅速な行政対応に資するため、24時間以内をめどに保健所へ届出を行うよう求められている。また、臨床診断例については、届出後であっても可能な限り検査診断を実施し、その結果について保健所に報告するよう求められている。

麻疹予防の基本は予防接種を受けることであるが、1回の予防接種では5%未満のprimary vaccine failure(PVF)が存在すること、接種後年数を経過すると、免疫が減衰し、流行期に発症する場合がある(secondary vaccine failure: SVF)ことから、2006年6月2日から、1歳児(第1期)と小学校入学前1年間(第2期)に、麻疹風疹混合ワクチンを原則とした2回接種制度が始まった。第1期の接種率は多くの自治体で95%以上になったが、初年度の第2期の接種率は約80%と低かった3)。2年目の2007年度の第2期接種率は8ポイント増加し約88%となったが、目標の95%以上には達しなかった(厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/080331b.pdf)。さらに、2008年4月1日から向こう5年間、予防接種法に基づく定期予防接種として、中学校1年生(13歳になる年度)(第3期)と高校3年生(18歳になる年度)(第4期)に相当する年齢の者に対して、2回目の接種機会が賦与されることになった(http://idsc.nih.go.jp/vaccine/dschedule/Imm08JP01.gif)。接種不適当に該当する者、麻疹と風疹の両方に罹患したことが確実な者、麻疹および風疹ワクチンをそれぞれ2回ずつ接種していることが記録により確認されている者を除いて、全員が接種対象である。どちらか一方に罹った場合でも麻疹風疹混合ワクチンの接種が法律上可能となった。しかし、第3期・4期の接種率を上げるには、接種を受けやすい環境も重要である。改正された定期予防接種実施要領(健感発第 0321008号、http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/vaccine_jisshiyouryou.pdf)には保護者同伴用件の緩和が盛り込まれた。また、学校での対策も重要であることから、文部科学省は「学校における麻しん対策ガイドライン(国立感染症研究所感染症情報センター作成、文部科学省・厚生労働省監修)、http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/school_200805.pdf」を全国の学校に配布した。新たに定期予防接種の対象となった中学1年生と高校3年生全員に、麻疹教育啓発のためのリーフレットを配布し、中学校、高等学校には、国立感染症研究所感染症情報センター作成の麻疹教育啓発ビデオ「はしかから身を守るために」(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/Video/measlesVideo.html)を配布した。乳幼児の疾患と考えられがちであった麻疹を学校保健上の重要な課題として位置づけ、学校も積極的に麻疹対策に取り組んでいくことの重要性が改めて認識された。「学校における麻しん対策ガイドライン」には、学校およびその設置者が効果的な麻疹対策を行うためには、麻疹の感染力および重篤性を十分に理解し、日頃から十分な予防策を施すとともに、万一麻疹が発生した場合には迅速な対応をとることが重要であり、これらの対策を進める上では、学校医および地域の保健機関等と緊密に連携することが必要であると記載している。

2008年、麻疹の国内流行は継続している。全数把握疾患になったことから、情報が迅速かつ正確に把握できるようになったが、1人の報告があった時点で麻疹対策を実施する体制が構築されていない。2008年6月11日現在、9,091人の麻疹患者が報告されており、年齢分布は10代が最も多く10〜20代で70%弱を占める。約半数に予防接種歴がなく、1回接種者は約20〜25%、接種歴不明が約25〜30%である(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/pdf/meas08-23.pdf)。合併症として最も重症である脳炎は5人報告されており、2007年の9人を含めると約1年間に14人の麻疹脳炎が発生した。

日本を含むWHO西太平洋地域は2012年を麻疹排除の目標年と定めている。麻疹排除達成の患者数は人口100万人あたり1人未満とされるが、そのためには95%以上の2回接種率が必要である。予防接種法に基づく定期予防接種対象である第1期〜第4期に該当する者はもちろんのこと、任意接種の枠組みであっても未接種未罹患者、接種歴罹患歴不明者は麻疹風疹混合ワクチンの接種が推奨される。特に、医療従事者や学校関係者、保育福祉関係者、海外に渡航する場合、病院や学校、保育園等で実習をする機会がある生徒・学生等は、接種が推奨されている。国内から麻疹を排除することは、国の課題である。麻疹の重篤性を正確に理解し、積極的な予防に努めることが、国内外に果たすわが国の責任である。

 参考資料
1) CDC, MMWR 57(7): 169-173, 2008
2) 大日康史, 他, IASR 28: 255-256, 2007
3) 上野久美, 他, http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3323.html

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子

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