結婚式場におけるサポウイルスを原因とする食中毒事例−愛媛県
(Vol. 29 p. 198-200: 2008年7月号)

2007年10月下旬、松山市内の結婚式場K会館で行われた結婚披露宴において、嘔吐、下痢等の胃腸炎症状を呈する集団発生事例が報告された。本事例の疫学調査およびウイルス学的検索の結果、披露宴料理の喫食によるサポウイルス(SV)感染食中毒事例と推定されたので、その概要を報告する。

事例の概要:10月24日、K会館から保健所に「10月20日に当施設で行われた結婚披露宴の出席者の中に、胃腸炎症状を訴えているものが多数いる。」旨の連絡が入った。保健所の疫学調査により、K会館で10月20日午後に行われた披露宴出席者、76名中39名(発症率51%)が嘔気、下痢、嘔吐等の胃腸炎症状を呈していることが明らかとなった。患者の症状(表1)、発生状況(図1)および喫食状況から、披露宴に提供された食品を原因とする食中毒(潜伏時間約36時間)が疑われた。発端となったこのグループ(Aグループ)の事例の報道発表後に、10月20日、21日にK会館で披露宴を行った別の2グループ(BおよびCグループ)、10月23日にK会館で調理された弁当を喫食したDグループにも発症者がいることが判明したため、合わせて調査を行った。

調査結果:本事例の概要とウイルス検査結果を表2に示した。患者糞便等について細菌学的検査およびノロウイルスのリアルタイムPCRを実施したが、原因物質の特定はできなかった。次にAグループの患者とK会館調理従事者糞便について電子顕微鏡観察を実施し、それぞれ14名中9名、3名中1名にSV様の粒子を認めた。そこで、岡田らのプライマーSV-F1/R1、SV-F21/R2を用いてSVのnested RT-PCRを行ったところ、A、B、CおよびDの各グループに、それぞれ15名中14名、11名中1名、12名中3名、5名中1名のSV遺伝子陽性例が認められた。また、同会館調理従事者8名中3名についてもSV遺伝子陽性となった。しかし、K会館の検食14検体、調理施設のふきとり10検体はSV遺伝子陰性であった。

患者糞便中から検出されたSV株とK会館調理従事者糞便中から検出されたSV株との関連性を調べる目的で、SV遺伝子陽性となった患者19名中18名、K会館調理従事者3名中2名由来のSV株を対象にカプシド領域 300塩基をnested RT-PCRで増幅した1)。次に、増幅産物のダイレクトシークエンスを行ったところ、これらのSV遺伝子塩基配列は完全に一致した。より詳細に株間の相同性を評価するため、患者18名中6名(A、B、CおよびDの各グループについて、それぞれ14名中3名、1名中1名、2名中1名、1名中1名)、K会館調理従事者2名中1名からの計7検体を選択し、SVゲノム3´側(カプシド開始コドンからゲノム末端まで)の2,264塩基を改めてRT-PCRで増幅し、ダイレクトシークエンスによって塩基配列を決定した。これらの株間では、VP1コード領域中に1カ所のC-T変異(transition)あるいはmicroheterogenecity(C/Tのmix)を認めたが、アミノ酸変異を伴わない同義置換であった。これらの結果より、本事例は同一SV株による集団発生であったと考えられた。得られたVP1 コード領域全長の遺伝子配列を用いて、系統樹解析を行ったところ、本事例より同定されたSV株はgenogroup(G)IVであった(図2)。K会館調理従事者の糞便検体と患者の糞便検体とのRNA濃度を比較するため、リアルタイムRT-PCR法でSV核酸量を測定したところ2)、1g当たり糞便中のSVコピー数は106〜1010 に分布し、糞便中に多量のSVが排泄されていたことが明らかとなった。特に、調理従事者については症状がないにもかかわらず、1g当たり糞便中のSVコピー数がそれぞれ106、109であり、患者と同レベルのウイルスが排泄されていることが示された。

まとめ:今回の事例では、披露宴に提供された料理を原因とする食中毒が疑われた。患者およびK会館調理従事者の糞便からSV GIVの遺伝子が検出された。検出されたSV株の塩基配列は、ほぼ100%に近い相同性を有していた。本事例では原因食材を特定することができなかったが、疫学調査の結果も合わせて考えると、K会館調理従事者を介してSVに汚染された食品の喫食によるSV集団感染であると思われた。今後は、食中毒事例の原因ウイルスとして、ノロウイルスだけでなくサポウイルスについても注意を払う必要がある。

 文 献
1) Okada M, et al ., Archi Virol 151: 2503-2519, 2006
2) Oka T, et al ., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006

愛媛県立衛生環境研究所
大塚有加 近藤玲子(元) 市川高子(現愛媛県立中央病院) 山下育孝 大瀬戸光明(元)
松山市保健所 関谷安正 上田哲郎 芝 信明
国立感染症研究所 岡 智一郎 片山和彦 武田直和

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