2007年12月、北海道において急性弛緩性麻痺(Acute Flaccid Paralysis: AFP)が疑われる症例発生の一報が所管保健所にあり、原因解明のため調査を行った。その結果、ポリオワクチン接種に伴うワクチン関連麻痺型ポリオ(Vaccine-Associated Paralytic Poliomyelitis: VAPP)が疑われたのでその概要を報告する。
患児(6カ月、男児)は2007年12月3日より発熱(最高39.0℃)、同6日に両下肢急性弛緩性麻痺が出現し、活気の低下、哺乳力の低下がみられた。問診の結果、11月中旬に1回目のポリオワクチン接種を受けており、特に背景には免疫異常はなく、また、ポリオ常在地への海外渡航歴もなかった。12月8日に近医療機関に入院、同21日に主治医から患児の居住する町役場を通じ所管保健所に「ポリオワクチン接種後の副反応報告書」が提出された。医療機関からの依頼によって、保健所が道立衛生研究所に12月12日〜15日に複数回採取した患児糞便と、12月10日および19日の髄液を送付した。検査を確実とするため国立感染症研究所と同時検査を行った。検体乳剤からのウイルス分離はVero、HeLa、A549、CaCo-2、RD、HEp-2各細胞およびポリオウイルスに高感受性のL20B細胞にて行い、継代も含め14日間細胞を観察した。細胞変性効果のみられた培養上清をさらにL20B細胞に接種しウイルス増殖を確認するとともに、中和法によって同定を行った。その結果、異なった採取日の糞便からポリオウイルス2型および3型が分離された。分離されたポリオウイルスのVP1コード領域における遺伝子解析を行った結果、各型に対応するSabin株との変異率はそれぞれ1.0%未満であった。このことから、ポリオウイルスワクチン株と判定した。一方、髄液からはウイルスは分離されず、エンテロウイルス遺伝子の検出を目的としたCODEHOP法においても検出されなかった1)。これらの結果は保健所から医療機関に通知され、2008年2月22日、患児の症状および検査結果などに基づき感染症法による2類感染症の発生届が提出された。患児の弛緩性麻痺は、ある程度の回復がみられたものの、発生届の時点では残存麻痺が認められ、VAPPの可能性が高いと考えられた(2008年1月10日退院)。
一方、疫学調査の結果、患児の家族を含む接触者に新たな発症者はなく、二次感染も認めなかった。また、同じワクチンを接種した他の乳児にも発症者はなく、当該ワクチンの保管状況および患児への予防接種状況にも問題は認められなかった。加えて、本件について厚生労働省に情報提供を行ったが、当該ワクチンの品質に問題はないとの主旨であった。現在、国内におけるポリオの予防は経口生ポリオワクチンの接種によって行われている。経口生ポリオワクチン接種に関連したVAPPは、国内では免疫異常のない被接種者において約 440万回の投与に1例程度出現するとされている2)。今後、わが国におけるVAPPの発生リスクを抑えるため、不活化ポリオワクチンの早期導入が必要であると考えられた。
おわりに、今回の報告にあたりご協力を得た医療機関の皆様に深謝いたします。
文 献
1) Nix WA, et al ., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2)伝染病流行予測調査報告書,昭和52年〜平成8年度, 厚生省保健医療局結核感染症課・国立感染症研究所感染症情報センター
北海道立衛生研究所感染症センター
三好正浩 吉澄志磨 地主 勝 石田勢津子 奥井登代 岡野素彦
北海道上川保健所 庄司昌代 田中早苗 三枝淳一 森 昭久
北海道保健福祉部 田邊寛樹 山口 亮
国立感染症研究所ウイルス第二部 西村順裕 清水博之