長野県内の結婚式披露宴会場で、会場の絨毯張りの床がノロウイルスにより汚染されたことが原因の一つと考えられた集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。
2008年4月28日に長野県南部の結婚式場から、4月26日午後3時30分より披露宴を行ったグループ(Aグループ)の中に胃腸炎症状を呈している患者が多数発生しているとの連絡が管轄の保健所にあり、調査を開始した。
患者の認められたAグループ(披露宴参加者)は総勢119名で、そのうち67名(56%)が発症していた。患者の発生状況は、4月28日の午前中をピークとする一峰性を示していた(図1)。披露宴開始時刻を曝露点と仮定した潜伏時間は10.5〜56.5時間で、平均34.3時間であった(n=65)。患者の主な臨床症状は、嘔気が43名(66%)、水様性下痢が41名(63%)、発熱、嘔吐および腹痛が34名(52%)であった(n=65)。
当該結婚式場では、Aグループの利用した日の午前中に、他グループ(Bグループ)が別会場で披露宴を行っていたものの、胃腸炎症状を呈する者は認められなかった。これら2グループに共通して提供された献立は、2品のみであった。当該結婚式場の調理従事者11名はいずれも発症しなかったのに対し、フロアスタッフ26名中8名(31%)が4月27日〜28日にかけて胃腸炎症状を呈していた( 図1)。発症したフロアスタッフの披露宴開始時刻を曝露点と仮定した潜伏時間は8.5〜55.5時間(平均40.4時間)で、披露宴参加者中の患者の潜伏時間とほぼ重なることから、披露宴会場内における同一曝露が推定された。なお、フロアスタッフの喫食調査の結果、披露宴参加者との共通食は認められなかった。また、Aグループの宴会中に会場内で嘔吐した者は、認められていなかった。
患者便8検体について、リアルタイムRT-PCR法によりノロウイルスの検査を実施したところ、7検体がGII陽性であった。また、調理従事者(いずれも非発症)便11検体およびフロアスタッフ(発症5名、非発症4名)便9検体も同様にノロウイルスの検査を実施したところ、発症していたフロアスタッフ便4検体がGII陽性であった(表1)。
さらに、感染源追及のため、Aグループの利用した披露宴会場の床を清掃した掃除機内のダスト3検体についても、ノロウイルスの検査を実施した。その結果、3検体ともGII陽性で、定量値は1.7×104〜1.6×105コピー/gであった(表1)。
患者便、調理従事者便、フロアスタッフ便、検食、調理室内ふきとり等を検体として細菌検査を実施したが、いずれも食中毒起因菌は不検出であった。
以上の調査結果から、本事例はノロウイルスによる当該結婚式披露宴会場における単一曝露が強く示唆された事例であった。
感染経路については、調理従事者便がノロウイルス陰性であったこと、共通する献立は少ないものの、同一利用日のBグループから発症者が認められないこと、喫食調査の結果において有意差の認められる献立がなかったことなどから、当該結婚式場が提供した飲食物を媒介とする感染症(食中毒)の可能性は低いと考えられた。披露宴会場内のダストがノロウイルス陽性だったことから、何らかの原因で当該会場内の床がノロウイルスによって広範囲に汚染されていたことが考えられ、会場内に出入りした者が宴会時間内に塵埃とともにノロウイルスに曝露(塵埃感染)した可能性が推察された。少なくとも発症したフロアスタッフは、Aグループのみを担当していたこと、および披露宴会場内で飲食をしていなかったことから、本経路による感染の可能性が高いと考えられた。
長野県環境保全研究所保健衛生部
吉田徹也 粕尾しず子 畔上由佳 内山友里恵 薩摩林一代 白石 崇
長野県伊那保健所食品・生活衛生課
中沢春幸 園田春美 藤田 暁