県内の保育所で発生した感染性胃腸炎の1事例から、ノロウイルス(NV)とサポウイルス(SV)が同時に検出されたので報告する。
2008年5月15日に保健所から、感染性胃腸炎の患者発生が5月9日から継続している保育所がある、との連絡を受けた。当該保育所では5月20日までに59人(児童54人、職員5人)の累計発症者数が確認されている。患者の発生状況を図1に示す。発症のピークは5月15、16日で、15日は児童19人と職員1人、16日は児童16人と職員2人の発症が確認された。主症状は嘔吐、下痢であった。病原因子検索のため、当センターに患者便6件(児童3件、職員3件)が搬入され、定量PCR法で合計3件(児童2件、職員1件)からgenogroup (G) II NV遺伝子が検出された。しかし、検査依頼のあった6検体は、発症日から検体採取までの期間が最長でも5日間(平均2日間)であったが、NV陽性検体から検出されたNV遺伝子数は、これまでに経験したNVを原因とする胃腸炎と比較すると低かったことを考慮し、他の病原因子の検索も行った。その結果、6件中1件(児童)からRT-PCR法でSV遺伝子が検出された。SV遺伝子検出用のRT-PCR法は、Okadaらの方法1)に準じて行った。なおSV遺伝子は、NV遺伝子が検出されなかった児童から確認された。検出されたNV遺伝子とSV遺伝子はダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、系統解析を行った。今回検出されたNV遺伝子とSV遺伝子の系統解析結果を、それぞれ図2と図3に示す。
分子疫学的解析の結果、検出されたNV遺伝子はGII/3 Mexico近縁株で、SV遺伝子はGI/1 Sapporo近縁株であった。SVについては、昨年度県内で発生した集団発生2事例からSVのGIVに属する遺伝子を検出しており、今回検出された株とは遺伝子型が異なっていた。
胃腸炎の集団発生があった保育所では、2008年4月上旬頃から胃腸炎が散発し、保護者からはロタウイルスが原因と診察医から診断されたとの話もあった。本事例ではNVとSVが同時期に流行しており、人−人感染で拡がったと考えられることから、感染が長期化する可能性も懸念されたため直ちに保健所を通して保育所に連絡し、感染の拡大に注意を喚起した。
文献
1)Okada M,et al ., Arch Virol 151:
2503-2509, 2006
宮城県保健環境センター微生物部
植木 洋 阿部美和 庄司美加 佐藤由紀 上村 弘 沖村容子 御代田恭子
宮城県塩釜保健所健康対策班
宮城県塩釜保健所岩沼支所総務保健班