中学校で発生した腸管凝集性大腸菌(EAggEC)O44:H18を原因とする食中毒事例−山梨県
(Vol. 29 p. 226-227: 2008年8月号)

探知:2007(平成19)年9月19日、A中学校の養護教諭から生徒および職員に下痢、腹痛等の症状を呈する者が多数いる旨の連絡が峡東保健所にあった。保健所で調査したところ、患者は9月14日から発生し、9月15日〜16日に患者発生のピークがみられ、患者の共通食は学校給食のみであることが判明した。

発生状況:学校給食を喫食した288名のうち229名が発症し、発症率は79.5%と高かった。図1に日別発生状況を示したが、9月15日に87名、16日に63名と、2日間で患者の66%が発生し、一峰性のピークがみられた。症状の発現率は腹痛が80%、下痢が76%であり、主要症状であった。

細菌検査:施設ふきとり10検体、食品35検体、患者糞便24検体、調理従事者(給食を喫食)糞便4検体を検査材料として病原菌の検査を行った。病原性大腸菌検査は、糞便をマッコンキー(MAC)に直接塗抹し、ふきとり、食品はTSBとECで二次増菌培養後MACに塗抹し、分離を行った。O44:H18のaggR astA 遺伝子保有が判明してからは増菌培養にノボビオシン加mECも加え、増菌培地からPCRによるaggR astA の検出も行った。その結果、患者糞便24検体中10検体、調理従事者糞便4検体中3検体(うち2名発症)から、O44:H18が分離された。しかし、ふきとり、食品からは病原菌は検出されず、増菌培地からもaggR astA は検出されなかった。分離されたO44:H18の病原因子の有無をPCRで行い、すべての株がaggR astA を保有していたが、他の病原因子VT1、VT2、LT、STh、STp、invE ipaH eaeA bfpA 遺伝子は保有していなかった。また、性状検査により、運動性の弱い12株と運動性の強い1株に分かれた。さらに、薬剤感受性試験を16薬剤(SA、SM、TC、CP、KM、ABPC、CET、CFX、CTX、LMOX、NFLX、CPFX、FOX、GM、NA、ST合剤)で行い、運動性との組合せで、(1)運動性の弱い・感受性10株、(2)運動性の弱い・FOM耐性2株、(3)運動性の強い・SM、TC耐性1株に分類された。

疫学調査:使用水の調査では、給食施設の水道水は毎日残留塩素が確認されていた。また、別系統の貯水槽を持つ学校の水道水は、これを使用しない調理従事者も同様に発症していることから否定された。喫食調査から11日〜13日の給食を食べていない発症者はいるが、14日の給食を食べていない者に発症者はいないことが判明した。また、保健所のχ2 検定で、14日の提供3品(カレーそぼろ丼、高野豆腐のバンバンジー、ワンタンスープ)が1%の危険率で原因食品と判定され、14日の給食が原因食品と推定された。

EAggEC検査:HEp-2細胞への付着性試験を実施し、分類(1)、(2)の株では凝集性付着が、分類(3)の株では細胞周囲のみの付着がみられ、付着性が異なっていた(図2)。試験に使用した増菌培地のPCRでは、(3)の株のaggR が検出されず、検査、保存の過程で脱落したことが推測された。(1)、(2)の株はHEp-2細胞への凝集性付着がみられ、aggR astA を保有していたが、他の病原因子は保有していなかった。EAggECの定義は「既知の腸管毒素、ST、LTを持たない凝集性付着を示す大腸菌」であることから、(1)、(2)の12株はEAggECであると考えられた。また、プラスミドの検出を行い、(1)、(2)の株は約110kb、(3)の株では約150kbのプラスミドを保有していた。EAggECの付着性因子は72〜123kbのプラスミドにコードされることから、(1)、(2)の株はプラスミドもEAggECに該当した。

パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE):13株のみの比較ではあるが、図3に示したようにすべての株が同一のパターンであった。

考察:今回の事例は、施設ふきとりや食品から原因菌は分離されなかったが、発症者の共通食が学校給食に限られ、発症のピークが一峰性を示し、細菌検査で複数の患者からEAggEC O44:H18が分離され、発症者の症状が腹痛、下痢と共通することから、EAggEC O44:H18を原因物質とした学校給食による食中毒と断定された。14日の給食が原因食品と推定されたが、食品を特定することはできなかった。

わが国ではEAggECによる散発下痢症の報告はあるが、食中毒、集団下痢症の発生報告はまだ少ない。今回、食品から原因菌が分離されず、疫学調査からも原因は不明であったが、aggR astA を保有するEAggEC O44:H18が食中毒の原因菌であることは確認された。このように原因菌を確定し、解析することで食中毒菌としてはまれにしかみられないEAggECのデータ蓄積に貢献できたらと考えている。

山梨県衛生公害研究所 野田裕之

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る