2004年に米国陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)のウイルス学者がバイオセーフティレベル4(BSL-4)実験室で、その2日前にマウス適合型のエボラウイルスを感染させたマウスで実験をしていた。その研究者が、標準的な手順に従ってマウスに免疫グロブリンを注射しようとした際に、感染マウスに使用した注射針が手袋を貫通し、手に小さな裂傷ができた。
USAMRIIDの医療、科学、および管理スタッフは、その研究者を生物学的封じ込め対策がなされているケアユニット(medical containment suite: MCS)内へ隔離することが妥当と判断した。接触感染と空気感染に対する予防策が用いられ、もしもその研究者に病気の兆候や症状が出た場合には、BSL-4実験室の感染防御対策へ強化するよう計画した。結局、実験に用いたマウスは事故の時点ではウイルス血症ではなかったことが確認され、研究者も発病せず、抗体陽転もなく、21日後に退院した。
MCSは、2名の収容が可能で、集中治療モニタリング、人工呼吸器、遠距離放射線装置を備えている。また、HEPAフィルターを通す独立した換気システムと、介護者の感染防護服(BSL-4実験室で着るものと同じ)の汚染を除去するためのケミカルシャワーを持ち、気密性の高いドアで周囲と隔離されている。廃水は実験室からの廃水とともに蒸気滅菌される。1972〜2004年に、21人がMCSに収容され、18人はUSAMRIIDの研究者で、3人は他施設の者であった。
実験室は、BSL-4ウイルス曝露が発生し得る場所である。特にフィロウイルスは、実験室内感染と関連があり、最初にウイルスが同定されたのも、1967年にドイツのマールブルグの実験施設において、研究員らがアフリカミドリザルへの曝露後に熱性疾患が発症したことが契機だった。その後、エボラウイルスの実験室内感染が、イングランド、コートジボワールで発生した。2004年にロシア研究者がエボラウイルス実験室内感染で死亡したことや、今回のUSAMRIIDの経験は、実験室内感染の問題が深刻であることを示している。
前述のように、USAMRIIDは実験室曝露を経験しているが、BSL-4実験室における曝露は稀である。しかし、今後より多くの施設がBSL-4実験室を必要とするウイルスの研究を実施するようになれば、ここに示したような事例は稀でなくなるかもしれない。
本稿では、USAMRIIDでの経験からフィロウイルスの実験室内感染が疑われる者への対策について言及した。現在米国にはBSL-4実験室を備えている施設がいくつかあるが、今後このような施設は増えると予想される。本稿がそのような施設における感染予防対策に役立つことを期待したい。
訳者注:BSL-4実験室内感染において二次感染事例は報告されていない。
(Emerging Infectious Diseases 14, No.6, 881-887, 2008)