概要および経過
2008(平成20)年5月28日に市内の飲食店営業者であるA施設から「27日の昼食を配達し、食べた幼稚園の職員および園児の中に下痢等の食中毒症状を呈している人がいる」旨の届出が保健所にあった。調査の結果、市内5つの幼稚園でA施設が調理配達した給食が原因の食中毒と断定した。原因食品は前日に調理・保管していた「肉じゃが」で、エンテロトキシン(Ent)陽性のウェルシュ菌が検出された。最終的に摂食者604名のうち有症者は397名となり、94検体の便からEnt陽性のウェルシュ菌が検出された。
27日に配達された給食を食べた園児等は、同日夕方から翌日の早朝にかけて発症し、潜伏時間は9〜15時間、症状は水様から粘性の下痢が最も多く87%、続いて軽度の腹痛が59%、その他倦怠感10%、発熱4%、嘔吐は1%であった。
原因食品となった「肉じゃが」は、前日26日の午後から回転釜で加熱調理された後、食缶3個に小分けされ室温で約1時間30分放冷、製品用冷蔵室で保管された。翌朝回転釜に移され強火で約10分間再加熱された後、約2時間の室温放置後配達用食缶に盛り分けられ、それぞれの幼稚園へ昼食用に配達されたものである。
原因調査
病因物質究明のために28日にA施設調理従事者の検便10検体、検食6検体、同施設ふきとり13検体、水道水1検体、輸送培地に採取された有症者検便64検体と、ウイルス検査用の糞便23検体が搬入され、食中毒菌全項目の細菌検査とノロウイルスの検査を常法に従い開始した。その後も有症者の検便が4日間にわたり搬入された。
翌日にカナマイシン含有CW寒天培地に検食(肉じゃが)1検体と有症者検便20検体からウェルシュ菌様のコロニーが検出された。この時点でその他の平板とノロウイルス検査で症状を裏付ける有力な病原体はみられなかったので、CW寒天培地から、PCR法によりcpe 遺伝子の確認を試み、検食(肉じゃが)1検体と有症者便9検体、合計10検体からcpe 遺伝子を確認した。同時にウェルシュ菌の性状確認とRPLA法によるEntの確認を行った。搬入された検体 319件のうち、検食(肉じゃが)1検体、有症者検便94検体からウェルシュ菌を分離(36.3%)した(表)。すべての株でEnt陽性、Hobbs型(市販17種)で型別不能であった。
またウイルス検査用に搬入された糞便からRPLA法でウェルシュ菌Entの有無を検査した結果、58検体(42.3%)が陽性であった(表)。
まとめ
前日調理の「肉じゃが」からウェルシュ菌が検出された。立ち入り調査の結果、加熱調理が不十分、急速放冷せず室温放置後冷蔵保存、翌朝の不十分な加熱により急激にウェルシュ菌が増殖し、さらに死滅し得なかったことが原因と推察された。
輸送培地便からのウェルシュ菌Ent陽性株の分離率は36.3%であった。
一方、糞便からのEntの検出率は42.3%で、喫食後2日目までの糞便では高率にEntが検出されたが、食中毒症状の回復とともにEntの検出率は低下した。有症時の糞便からのウェルシュ菌Ent検出の有用性を確認できた。
食中毒の原因調査での糞便搬入においては、細菌検査用には輸送培地に採取された状態で、またウイルス検査用には糞便そのものが搬入されている。今事例では、ウイルス検査用の糞便から直接Entの有無を判定することができ、ウェルシュ菌分離数よりも若干高率の検出があり、糞便の有用性を感じた。
新潟市保健所
新潟市衛生環境研究所