大阪府感染症発生動向調査におけるエンテロウイルス(EV)の検出状況について報告する。
第28週(7/7〜7/13)の時点でヘルパンギーナの患者数は前週より増加、手足口病はピークを過ぎており、定点当たりの報告数は4.0、3.5である。昨年同期との比較ではヘルパンギーナ患者数はおよそ1/2、手足口病はおよそ2倍の患者数となっている。
当所では検査結果の迅速な還元のためにウイルス分離に先行してRT-PCR法によりEVの検出を行っている。EVの塩基配列には数カ所の属共通の配列が含まれることから、EVを共通に検出するプライマーが設計され、5´non coding regionの一部からVP4全域およびVP2の一部を含むPCR法 1-3)およびVP1の一部から2Aの一部を含むPCR法 4-6)が開発されている。当所では前者の領域を増幅させるPCRを採用している。
検出方法は、患者材料(咽頭ぬぐい液、髄液、糞便乳剤上清)0.2mlからRNA抽出キット(High Pure Viral RNA Kit; Roche)を用いて50μlのRNA液を得、Seminested PCR法 7)でEV遺伝子の検出を行った。1st PCRにはプライマーOL68-1 2) (antisense; 5´ GGT AAY TTC CAC CAC CAN CC 3´)、EVP2 7) (sense; 5´ CCT CCG GCC CCT GAA TGC GGC TAA T 3´)を用い、逆転写反応42℃ 30分、99℃ 5分の後、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分のサイクルを40回行った。2nd PCRにはプライマーOL68-1、EVP4 7) (sense; 5´ CTA CTT TGG GTG TCC GTG TT 3´)を用い、反応液に1/50量の1st PCR産物を加え、1st PCRと同じ条件で増幅を行った。増幅産物はアガロースゲルから切り出して精製した後、ダイレクトシークエンスにより塩基配列(VP4; 207塩基)を決定し、BLAST (http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi) による相同性の検索を行った。
現在まで23名の患者から27株のEVが検出されている(表)。ヘルパンギーナからはB群コクサッキーウイルス(CB)4が 5株、他4株が検出された。手足口病では4〜6歳児からCA16 4株、EV71 2株、他1株が検出されたが、EV71の2名には髄膜炎の症状が認められた。無菌性髄膜炎では4名からCB5が検出されたが、うち3名は0歳児であった。またエコーウイルス(Echo) 30が1名から検出された。6月に某保育所で0歳児クラスの9名中4名が発熱、全身発疹の症状を示し、検査を行った2名からEcho 5が検出された。Echo 5 はRD-18S、Vero-E6細胞からも分離された。
こうした現況であるが、今シーズンの流行の主流になるようなEVはまだ特定されていないので、今後も監視が必要であると思われる。
引用文献
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7) 石古博昭, 他, 臨床とウイルス 27: 283-293, 1999
大阪府立公衆衛生研究所
山崎謙治 左近直美 中田恵子 加瀬哲男