梅毒の届出において、先天梅毒以外の早期顕症I期、早期顕症II期、晩期顕症、無症候梅毒の4つの病型では、届出基準として、発疹からの病原体の検出(パーカーインク法)あるいは、血清抗体の検出(カルジオリピンを抗原とする検査、トレポネーマを抗原とする検査のいずれもが陽性であること)の検査診断が必要とされている。さらに無症候梅毒では、陳旧性梅毒を除外するため、カルジオリピンを抗原とする検査(RPR カードテスト、凝集法、ガラス板法)で16倍以上であることとされている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-11.html参照)。
本月報Vol.23 No. 4「<特集>梅毒2001年現在」に掲載した1999年4月〜2001年12月の梅毒患者の病期別の年齢(図左側)では、高齢者で無症候の報告が特に多いことが認められ、その理由として、術前検査や老人福祉施設入所時の抗体検査などで判明した陳旧性梅毒の症例が、届出基準が徹底されないままに報告されているものが含まれている可能性が考えられた。
そこで中央感染症情報センター(国立感染症研究所)では、2003年4月から、無症候梅毒が上記基準を満たしているかを1例ごとにチェックした。抗体価の記載は必須事項ではなく、検査方法も含め自由記載であったため、記載されていないものがほとんどであった。抗体価の記載されていない場合には、地方感染症情報センターに協力を求め、保健所を経由して届出医に、カルジオリピンの抗体価の再確認を行った。抗体価16倍未満であったものについては、届出対象外とした。
すべてとはいかなかったが、相当数の症例について協力が得られた。
その結果、2004年1月〜2005年12月の2年間の病期別の年齢では、50歳以上の年齢群で無症候梅毒の報告数に減少が認められた(図右側)。この結果は、より本来の無症候梅毒発生の年齢を示しているものと考えられるとともに、抗体価16倍という値が、陳旧性梅毒の判断に妥当な値と考えられた。
なお、2006年4月にすべての届出様式が変更され、1疾病1様式となり、診断方法記載欄に検査方法とともに「無症候梅毒の時は抗体価を記載」と明記され、抗体価の記載欄も設けられた。現在は抗体価の記載されていないものは稀となった。
無症候梅毒届出基準に係る新たな課題
カルジオリピンを抗原とする上記の3つの方法は、血清希釈により倍数定量を可能としているものであるが、現在自動分析装置による検査が普及しつつあり、そこで示される測定値が、上記届出基準に合致するかどうかの判断が難しくなっている。この点については、希釈倍数の変化により行われている梅毒治療上の治癒判定基準などにも関わる点であり、性感染症学会などでこの点に関する検討が始められている。
国立感染症研究所感染症情報センター