東京都における性感染症サーベイランスによる病原体検査成績
(Vol. 29 p. 252-253: 2008年9月号)

感染症発生動向調査によると、東京都における性感染症(STI)の報告数が全国平均と比較して著しく多い状況にある。このような状況を鑑み、東京都では2007年11月にSTI定点医療機関の見直しと追加指定を行った。これにより、東京都におけるSTI定点医療機関は41定点から55定点に、STI病原体定点医療機関は1定点(婦人科)から4定点(婦人科、泌尿器科、肛門内科・皮膚科)に増設された。

病原体検査対象疾患は、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症(性器ヘルペス)、尖圭コンジローマおよび膣トリコモナス症等とし、各定点には、月最大10検体程度を目安に対象疾患患者の患部スワブ、頸管スワブ、生検材料および尿等の採取を依頼している。これらの検体は、宅配便を用いて収集し、細菌、クラミジアおよび寄生虫検査については当センター病原細菌研究科にて、ウイルス検査についてはウイルス研究科にて実施している。

本稿では、2007年11月〜2008年7月の間に搬入された検体の検査結果をまとめた。病原体定点で採取された対象疾患疑い患者の検体総数は332件であった。内訳は、性器クラミジア感染症65件、淋菌感染症32件、尿道炎128件、膣トリコモナス症4件、性器ヘルペス38件および尖圭コンジローマ38件などであった(表1)。

性器クラミジアおよび淋菌検査の結果を表2に示した。性器クラミジアおよび淋菌については、遺伝子検査(アンプリコアSTD-1)を実施し、淋菌については、さらに、分離培養検査(サイア・マーチン寒天培地)も実施した。その結果、性器クラミジア感染症を疑う男性患者検体36件中13件(36%)からはクラミジア遺伝子、12件(33%)からは淋菌遺伝子が検出され、菌分離も8件あった。女性患者検体では29件中20件(69%)でクラミジア遺伝子が検出されたが、淋菌遺伝子の検出と菌分離陽性はわずか2件(6.9%)であった。一方、淋菌感染症疑いの男性患者検体31件中24件(77%)から淋菌遺伝子が検出され(分離14件)、クラミジア遺伝子についても22件(71%)から検出された。したがって、これらの感染症を疑う男性患者の場合には、クラミジアおよび淋菌の同時感染をも念頭に置いた検査が必要であると思われた。また、膣トリコモナスについては、そのリボゾームRNA遺伝子を標的とした遺伝子検査を行い、トリコモナス症を疑う検体4件中2件から標的遺伝子を検出した。

ウイルス検査の結果を表3表4に示した。性器ヘルペスについては、リアルタイムPCR法を用いてヘルペスウイルス(HSV)遺伝子の検出を実施した。性器ヘルペス疑い38件中8件(21%)からHSV-1遺伝子を、14件(37%)からHSV-2遺伝子を検出しており(表3)、性器ヘルペスの原因ウイルスとしてはHSV-2が若干多い状況にあった。また、患部スワブから検出されたウイルスゲノムは105 〜107 コピーに相当することがわかった。

尖圭コンジローマについては、ヒトパピローマウイルス(HPV)遺伝子のL1領域を標的としたmultiplex-PCR法を行い、特異バンドが検出された場合には塩基配列を決定し、型別検査を実施した。その結果、38件中33件(87%)で特異バンドが検出され(表4)、がん化へのリスク分類型別でみると、Low Risk型であるHPV-6型が14件、11型が9件、40型が1件であり、残りの9件はHigh Risk型であるHPV-16、18、31、56、68型であった。

今後これらの調査を継続して実施していくことで、東京都におけるSTIの実態把握が可能となり、都におけるSTI対策に寄与できるものと考える。

東京都健康安全研究センター
病原細菌研究科
伊瀬 郁 遠藤美代子 高野弘紀 内谷友美 村田理恵 鈴木 淳 保坂三継
ウイルス研究科
長島真美 新開敬行 尾形和恵 仲真晶子
疫学情報室
灘岡陽子 梶原聡子 阿保 満 神谷信行
微生物部
貞升健志 矢野一好

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