2008年6月下旬に県内の大学においてインフルエンザの集団発生事例があり、当所にてウイルス検査を行ったところ、AH3亜型インフルエンザウイルスが検出されたので、その概要について報告する。
2008年6月26日に県西部の医療機関より保健所に対し、近隣にあるA大学(学生数2,940名)の学生に、迅速キットでA型インフルエンザと診断されるケースが多く認められるとの通報があった。調査の結果、6月20日〜30日にかけて計34名の学生がインフルエンザ様症状を訴えており、そのうち20日発症の1名については入院加療を要したことが明らかになった。患者発生状況は図に示すように、6月20日に4名の患者が確認された後、24日〜27日にかけて患者が続発した。その後7月1日以降に新たな患者は認められず、流行は終息した。患者34名のうち初発患者4名を含む24名(70.6%)が7学部中2学部に所属する2年生で占められており、これらの学生を中心に流行が広まったことがうかがわれた。なお、患者の海外渡航歴等については特に認められなかった。
6月25〜26日に発症した患者のうち、迅速キットでA型インフルエンザ陽性であった5名(2年生4名、1年生1名で、そのうち2年生の1名はワクチン接種済み)の咽頭ぬぐい液について、MDCK細胞を用いてウイルス分離を行ったところ、全員からモルモット赤血球に凝集能を有するウイルスが分離された。そこで、分離株について国立感染症研究所より配布された2007/08シーズン用インフルエンザウイルス同定キットを用いて、赤血球凝集抑制(HI)試験により型別を実施した。その結果、分離株5株のうち抗A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)血清(ホモ価1,280)に対しHI価640が3株、320および40がそれぞれ1株ずつであった。その一方、抗A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)血清(ホモ価640)、抗B/Shanghai(上海)/361/2002血清(ホモ価1,280)、および抗B/Malaysia/2506/2004血清(ホモ価1,280)に対しては、いずれもHI価<10であり、分離株すべてがAH3亜型であることが明らかになった。
2007/08シーズンに岡山県で分離されたインフルエンザウイルスは、そのほとんどがAH1亜型であり、AH3亜型は3月下旬に県南部の定点医療機関において1株が分離されたのみであった。本事例の感染源は明らかではないが、分離株の抗原性がA/Hiroshima(広島)/52/2005類似のもの(HI価で4倍以内の差)と、異なるもの(HI価で32倍の差)が認められたことから、複数の感染源の存在が示唆された。県内において夏季にAH3亜型インフルエンザウイルスの集団発生例が確認されたのは今回が初めてのことであり、原因ウイルスの今後の流行動向が注目される。
岡山県環境保健センター ウイルス科
葛谷光隆 濱野雅子 藤井理津志 小倉 肇
岡山県高梁保健所
坪井朋子 川上貴裕 後藤俊一 高田八重子 阿部ゆり子