藤沢市内の高校において、修学旅行先の北海道にて腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事例が発生したので、その概要を報告する。
2008年6月11日、川崎市から藤沢市保健所に対して、次のような情報提供があった。「川崎市内の医療機関より、EHEC O26(Stx1)感染症の発生届が提出された。患者は川崎市内居住者であるが、藤沢市内の高校へ通学する高校生で、当該高校の北海道修学旅行(6月2〜6日)参加中の発症(5日)であった。このため広域または集団感染の可能性も考えられるので、当該高校の調査が必要と思われる。」という内容であった。
藤沢市保健所において直ちに当該高校の調査を実施したところ、修学旅行に参加した3年生229名のうち73名に腹痛、下痢等の症状が出ていること、さらにこのうちの1名は横浜市内の医療機関でEHEC O26(Stx1)陽性であることが確認されていることが判明し、当該高校における本菌の集団感染の疑いが濃厚になった。
修学旅行の概要:旅行期間は6月2日(月)〜6日(金)の4泊5日で、3年生6クラス229名を2班に分け、1班は「釧路→知床→網走→富良野など」のルート、2班はこの逆ルートを回り、行程中の両班の合流はなかったが、4日(水)の昼食では時間をずらして同じ施設を利用していた。
症状等:有症者は生徒73名(1班52名、2班21名)、発症期間は6月2〜11日の間で、同行した教員に有症者はいなかった。主な症状は腹痛、下痢で比較的軽く、発熱を伴うものもいたが、重症者は見られなかった。
検査:有症者73名中47名(1班36名、2班11名)について検便を行った結果、すべて1班の25名からEHEC O26(Stx1)が分離され、2班の有症者からは分離されなかった。分離株8株について実施したH型別ではいずれもH11 であった。
検査は分離培養にDHL、CT-RMAC、RXO26寒天培地、増菌培地としてノボビオシン加mEC培地を使用した。各培地の培養温度、時間等は定法のとおり実施し、検査の精度向上のために増菌培養液を鋳型にしたリアルタイムPCR法の実施、当該 法でStx1遺伝子陽性になった培養液についてはO26ビーズ法も併用して行った。
分離されたEHEC O26(Stx1)25株中20株について、制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った結果、20株中18株は同一パターン、2株はバンド各々1本異なるだけの類似パターンを示し、これら分離株は同一汚染源に由来した可能性が示唆された。
まとめ:当該高校の生徒が日常的に利用している学生食堂、売店等に、食中毒の疑いが持てるような苦情の申し出はなく、また、修学旅行前の当該クラス生徒の欠席状況は各日ごと0〜3名で、クラス間の偏りも特に見られなかった。さらに、有症者についてEHEC O26(Stx1)の分離培養検査を実施した結果、1班の36名中25名(69%)が陽性であったが、2班の11名はすべて陰性で、2班の有症者の症状は本菌による感染以外の要因によると思われた。従って今回の事例は、当該高校3年生1班の修学旅行先で、何らかの同一感染源を原因として発生したことが強く疑われた。
藤沢市保健所
寺田直樹 佐藤 健 平井有紀 沖津忠行(衛生検査課)
小出元子 宮崎晃子 田渕 明 佐々木つぐ巳 田口良子(保健予防課)
国立感染症研究所
寺嶋 淳 伊豫田 淳 渡辺治雄