大阪市におけるRSウイルスなどの呼吸器ウイルス検出状況
(Vol. 29 p. 281-282: 2008年10月号)

呼吸器感染症は、年間を通して患者が発生している。原因となる病原体のうちウイルスについては、多種報告されているため、検体中のウイルスを効率よく検出し、その流行を詳細に把握、解析するためには、検査対象ウイルスを拡げる必要がある。

我々は、感染症発生動向調査事業において、呼吸器感染症患者検体からのウイルス検索をおこなうにあたり、Vero、RD-18S、またはMDCK細胞を用いたウイルス分離を試みる一方、必要に応じて遺伝子検査を実施している。呼吸器ウイルスの遺伝子検査については、2003年以降、RSウイルス(RSV)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)(Kaida et al ., J Clin Virol, 2006)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)1、2、3型、およびヒトボカウイルス(HBoV)(IASR 29: 161-162, 2008)について順次導入した。その結果、従来、ウイルス陰性と判定していた検体からウイルスゲノムが検出され、病原体検出率が向上する一方、同一検体から複数種のウイルスが検出されるなど、得られる情報が増える効果が認められた。

大阪市において、2004年4月〜2008年8月までの期間に検出されたRSV、hMPV、A型インフルエンザウイルス(Flu A)、B型インフルエンザウイルス(Flu B)、アデノウイルス(AdV)、HPIV-1、-2、-3、HBoVの各ウイルスの年別検出状況を図1に示す。調査年により検査総数、各ウイルスの流行状況が異なるため、単純な比較は難しいが、遺伝子検査導入の結果、検出可能なウイルス種が増え、各ウイルスの流行状況をより詳細に把握することが可能となった。特に春季については、hMPV、HBoV、HPIVの遺伝子検査導入によりウイルス検出率の顕著な向上を確認している。

上記の呼吸器ウイルスのうち、特にRSVに焦点をあて、月別検出数を図2に示す。調査期間中、121検体(120名由来)のRSV陽性検体を検出し、その内訳は、鼻汁80検体、喀痰24検体、咽頭ぬぐい液16検体、気管吸引液1検体であった。検出のピークは、例年、冬季を中心にみられるが、他の季節においても少数検出されている。2004年7月には、市内保育所における呼吸器感染症集団発生事例の原因となっており、非流行期においても注意が必要である(IASR 25: 235-236, 2004)。RSV陽性者の年齢分布については、小児科定点からの検体数が多数を占めることもあり、陽性者全体の84%は5歳未満の乳幼児であった。特に1歳以上3歳未満の患者が約40%を占めた(表1)。RSV陽性検体における他の呼吸器ウイルスの検出を試みた結果、RSV単独検出が82%を占め、その他はhMPVやFlu A、AdV、HPIV-1、HPIV-2、HBoVとの複数検出であった(表2)。これら他の呼吸器ウイルスとの複数検出がRSV感染症の臨床症状に与える影響は明らかでない。

近年、新たな呼吸器ウイルスの発見が相次いでおり、検査対象となるウイルスは一層、増えつつある。今後、検査可能なウイルスを増やし、より詳細な流行解析をおこなう予定である。

大阪市立環境科学研究所
改田 厚 久保英幸 入谷展弘 後藤 薫 長谷 篤
大阪市保健所
仁科展子 齊藤武志 森 登志子 穴瀬文也 吉田英樹

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