Human coronavirus 229E近縁ウイルスの分離と同定について
(Vol. 29 p. 283: 2008年10月号)

Human coronavirus (HCoV)はかぜ症候群の原因ウイルスのひとつとして重要であるが、検体からウイルスが分離されることは稀である。今回我々は、咽頭炎と診断された小児からHCoVを分離したのでその経過を報告する。

患者は1歳の男児で、2008年3月に発熱(38.4℃)と上気道炎を呈し、佐渡市内の医療機関を受診した。

発病日に採取された咽頭ぬぐい液をMDCK細胞、CaCo-2細胞、RD-18S細胞、Vero細胞、HEp-2細胞およびLLC-MK2細胞に接種しウイルス分離を行った。また、パラインフルエンザウイルスの分離を目的として、CaCo-2細胞とLLC-MK2細胞を用いて、トリプシンを加えた培養液(以下「Try+」とする)による分離も行った。2代まで盲継代を行ったが、Try+CaCo-2細胞以外ではCPEは認められなかった。Try+CaCo-2細胞で初代接種後11日目にCPE(+)となり、3代まで継代し同定を行った。インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルスを疑い、赤血球凝集反応を実施したが、ニワトリ、モルモット赤血球ともに赤血球凝集は認められず、これらのウイルスは否定された。次に分離したウイルスを他の細胞に接種してみたが、CaCo-2細胞以外ではCPEは認められなかった。そこで、電子顕微鏡でウイルスを観察したところ、ウイルス粒子の周りにコロナウイルスに特徴的な王冠状の形態を確認したので、RT-PCRによるHCoV遺伝子の検出を試みた。培養上清からHigh Pure Viral RNA Kit(Roche)を使用してRNAの抽出を行い、1ab遺伝子を検出するPoutanen1)らの方法とMoës 2)らのプライマーセットを用いてRT-PCRを行った。それぞれ目的とする215bpと250bpのバンドが得られたので、PCR産物を精製後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、BLAST(http://blast.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)による相同性検索を行った結果、HCoV 229Eとの相同性がそれぞれの増幅領域で92%、97%で、これと近縁なウイルスであることが判明した。

HCoVはかぜの原因ウイルスとして普通に流行しているウイルスであるが、通常の培養細胞でウイルスが分離されることは稀である。今回使用したTry+CaCo-2細胞でのウイルス分離はHCoVの検出に有用と思われた。

 文 献
1) Poutanen SM, et al ., N Engl J Med 348: 1995, 2003
2) Moes E, et al ., BMC Infect Dis 5: 6, 2005

新潟県保健環境科学研究所
広川智香 渡部 香 昆 美也子 田村 務 西川 眞
佐渡市立両津病院小児科 岩谷 淳

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