コレラ、2007年−WHO
(Vol. 29 p. 285-286: 2008年10月号)

コレラは世界の発展途上国の公衆衛生上の脅威であり、社会的発展の指標の一つでもある。

2007年WHOは4,031例の死亡を含む177,963症例を記録した。公式の報告としては、症例数は2006年と比較して25%減少したが、2002〜2005年の平均と比べると46%増加している。死亡者数は2006年の6,311例と比較して36%減少した。致死率は2.27%で、2006年の2.66%からやや低下した。死亡のほとんどはアフリカからの報告である。致死率が35%に達する地域もあった。

2007年は中央アメリカと南アメリカを除く53カ国から報告があった。アフリカは 166,583症例で、全症例の94%を占めた。2006年からは29%減少したが、それ以前の5年間の平均より19%増加している。アジアは11,325症例で、全症例の6.4%を占めた。北米は輸入例と地域例、欧州とオセアニアは輸入例のみの報告であった。中央アジアおよび西太平洋地域からの情報はなかった。

2007年のコレラ集団発生報告の多くは、アフリカの角(つの)地域、中東、メコンデルタからであった。2006年に集団発生を報告したアンゴラとスーダンの2007年の報告数は、2006年と比べて、それぞれ73%、55%減少しており、両国におけるコレラの脅威は小さくなっている。

また、WHOは世界で53件の下痢症の集団発生を確認し、うち32カ国での45件がコレラと確認された。うち、38件はアフリカ、8件はアジアであった(訳者注:合計数が合わないが原文のまま記載)。

実際にはコレラの患者数はもっと多いと思われる。WHOの症例定義に基づけば症例数が増えるはずだが、検査確認された症例だけを報告している国もある(訳者注:WHOの症例定義では検査確認されなくても疫学リンクのある症例を含む)。また、アフリカや中央アジア、東南アジアに多くみられる急性水様性下痢症候群は含まれない。観光や貿易への影響を懸念してコレラの報告が行われていないかもしれないが、2007年6月の国際保健規則(IHR)の履行により、コレラ流行の予防と制圧に向けた透明性のある情報共有が進むであろう。

多くの国がコレラの封じ込めに努力してきたが、衛生状態の悪い環境に暮らす人は増えてきているという現実に目を向けなくてはならない。コレラの集団発生数が多いことや致死率が高いことは、コレラ制圧活動の強化が必要であることを示している。

近年のコレラ発生において、重症度の高い新しい菌株の出現や薬剤耐性株の増加がみられており、将来コレラが世界における公衆衛生上の重要な脅威に返り咲く日が来るかもしれない。

感染伝播と集団発生のパターン(アジア地域についてのみ抄訳しアフリカ、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアは省略):アジアからの公式報告数は、西太平洋地域が報告をしていないのにもかかわらず、2007年にはそれ以前の4.5倍となった。8カ国から37例の死亡を含む11,325例の報告があり、インドは2,635例で23%を占めた。メコン地域は3,543例で、うちラオスが169例で、タイは1,428例(訳者注:過去13年間WHOへの報告はされていなかった)、ベトナムは1,946例であった。中国は168例、日本からの報告はなかった[訳者注:2007年は13例(うち9例が輸入例)であったが、WHOには報告されていない]。

2007年のサーベイランスデータを受け取っていないが、中央あるいは東南アジアにはまだまだ多くの未報告事例がある。コレラの流行地であるバングラデシュなどの国々では、雨季に洪水が起こるとコレラの発生はピークとなる。

イラクでは約3万人の急性水様性下痢症の大流行に続いて、死亡24例(致死率0.5%)を含む4,696例のコレラの発生があった。これは2003年以来の初めての記録であった。この流行はイラク北部Kirkukから始まり、近隣地区に拡大した。KirkukとAs Sulaymaniyah地区で全事例の91%を占めた。イランの19例はイラクとの行き来によるものであった。

菌株の変異Vibrio cholerae O139は1992年にベンガル湾で出現したが、今後もコレラの世界的な流行を引き起こす可能性がある。そのため、コレラを診断した場合、血清型に関してO1かO139の検査を行うことが推奨される。2007年にはO139の報告は中国とタイからあった。中国では165例のコレラ報告のうち41%が、また、タイでは1,428例のうち6例がO139と同定された。O139はバングラデシュやアフリカの国々では検出されていない。

近年バングラデシュで新しい菌株が検出された(訳者註:生物型はエルトール型の性状を示すが、コレラ毒素は古典型の配列を持つ。hybrid strain またはaltered El Torと呼ばれる。日本で最近分離された株は、ほとんどこの型である)。この菌株は東アフリカでも検出されており、重症化し致死率が高いようである。

また、近年バングラデシュのダッカの病院で多剤耐性菌株が検出された。当該患者は激しい脱水を起こし、大量の経静脈輸液が必要であり、長期入院を余儀なくされている。コレラの制圧には国や世界レベルでの薬剤感受性のモニタリングも重要である。

経口コレラワクチン:WHOは防御効果が低く(持続は3カ月間で、しかも45%程度の効果とされる)、公衆衛生対策として用いるには適さないという理由から、旧来の非経口ワクチンは推奨してこなかった。

しかし、WC/rBS、改良WC/rBS、CVD 103-HgRの3種類の経口コレラワクチンが開発され、安全かつ効果的であることが証明された。WHOはWC/rBSを暫定認可し、大規模経口コレラワクチン接種キャンペーンのいくつかを支援している。これらの活動はコレラ感染リスクの高い集団に対する公衆衛生的予防手段の一つとしての経口コレラワクチンの有用性に関する知見の蓄積に貢献するであろう。

(WHO, WER, 83, No. 31, 269-283, 2008)

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