レジオネラ臨床分離株の収集と型別から得られた知見
(Vol. 29 p. 332-333:2008年12月号)

レジオネラ症の届出数の増加に伴い、レジオネラ臨床分離株が分離される比率は相対的に低下している。レジオネラ症患者発生時に感染源を解明するためには、臨床検体から菌を分離し、患者周辺の環境から分離された菌株との異同を確認する必要がある。したがって、レジオネラ尿中抗原陽性による診断にとどまらず、臨床検体から菌を分離することは非常に重要である。また、Legionella pneumophila 血清群(SG)1以外のレジオネラ症起因菌の場合は、ほとんど尿中抗原陰性となるので、注意が必要である。菌分離がなされると、菌種、血清群の同定、遺伝子型別等が可能になり、起因菌の年次推移や、地域的特性、あるいは推定感染源との関連等が明らかになってくることが期待される。そこで、衛生微生物技術協議会レジオネラ・レファレンスセンターで、2007年8月よりレジオネラ臨床分離株の収集を開始した。地方衛生研究所に呼びかけて、過去に分離された菌株も収集したところ、2008年6月時点で、44株(集団感染に由来する異なる患者に由来する同一菌株の重複を除いた菌株数)の菌株を収集することができた。複合感染により一人の患者から異なる2つの血清群の株が分離された事例があったため、事例数は43である。分離年は1997年の1例以外は2000〜2008年となっている。9事例は集団感染事例であった。

菌種の内訳は表1に示した。L. pneumophila が9割以上を占め、さらにそのうち8割がSG1であった。

感染源は推定も含め、入浴施設が28例(家庭浴槽と推定された2例を含む)、ハウス栽培の土や水(推定)が2例、加湿器が1例、不明が12例であった。

L. pneumophila については、EWGLI(European Working Group for Legionella Infections, http://www.ewgli.org)の提唱するSBT(Sequence Based-Typing)法に従い、flaA pilE asd mip mompS proA neuA 遺伝子の一部領域の塩基配列を決定し、遺伝子型別を行った。L. pneumophila SG1の株についてはドレスデン工科大学のDr. JH Helbigに依頼して、モノクローナル抗体による型別を行った。モノクローナル抗体型は表1にSG1の内訳として示した。

L. pneumophila SG1のモノクローナル抗体型別の結果は、Benidormが約半数で、ついでAllentown/Franceが約3割と多かった。ヨーロッパ臨床分離株約1,000株の調査1)では、Philadelphiaが約3割、Benidormが2割、ついでKnoxville が2割弱、Allentown/Franceは1割ほどで、さらにOLDAの頻度は低く、ヨーロッパとは大きく異なる結果となった。

L. pneumophila 42株は28種類の遺伝子型(ST)に分けられた。そのうち、23種類の遺伝子型は日本独自の型であった。1株しかない遺伝子型は22種類で、SBT法の疫学的有用性が確かめられた。一方、6株、5株、3株あったものが1種類ずつ、2株あったものが3種類あった。分離年や、分離地域による偏りは特にみられなかった。集団事例株9株のうち8株は国内外で他に報告のある遺伝子型で、広く分布する型が、集団感染事例を起こしやすい可能性が示唆された。2000年の茨城県、2002年の宮崎県の循環式浴槽による大規模集団感染事例の起因菌がともにST23であったことは興味深い。ST23は他に散発例が1株あった。また、それぞれ6株、5株みられたST306 、ST138 は日本独自の型だが、1例を除き、感染源は浴槽水と確定あるいは推定されている。世界各地で臨床検体からも環境からもよく分離されるST1は、現時点での調査結果では、日本の冷却塔水由来株の7割以上を占めるが、今回調べた臨床分離株のうちでは、1株のみであった。

さらに多くの臨床分離株の遺伝子型別を行うことで、情報が蓄積し、新たな知見が得られるものと期待される。遺伝子型が生息環境を反映している可能性がある2)ので、感染源不明の事例で、臨床分離株の遺伝子型別を行うことは、感染源推定の手がかりとなりうると思われる。臨床検体から菌を分離することの重要性を改めて周知徹底する必要がある。臨床分離株が収集された場合、あるいは既に臨床分離株を保有している場合、レジオネラ・レファレンスセンターまでご一報くださると幸いである。送付された菌株の型別の結果は随時送付者にお返ししている。菌株を送付くださった方々に感謝申し上げるとともに、引き続き一層の協力をお願いする次第である。

 文 献
1) Helbig JH, et al ., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 21: 710-716, 2002
2) Amemura-Maekawa J, et al ., Microbiol Immunol 52: 460-464, 2008

衛生微生物技術協議会レジオネラ・レファレンスセンター
国立感染症研究所細菌第一部 前川純子 倉 文明
山形県衛生研究所 金子紀子
神奈川県衛生研究所 渡辺祐子
富山県衛生研究所 磯部順子
神戸市環境保健研究所 貫名正文
岡山県環境保健センター 中嶋 洋
宮崎県衛生環境研究所 河野喜美子
国立感染症研究所感染症情報センター 多田有希

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