2008年6〜7月に、5例のレジオネラ肺炎が地方衛生当局およびノルウェー公衆衛生研究所に報告された。全例がノルウェー南東部の近接する工業都市であるサルプスボルとフレドリクスタに住んでおり、同地区では2005年に木材から化学物質を合成するA社の工場のスクラバー(排ガス洗浄集塵装置)が原因と考えられる56例のレジオネラ肺炎集団発生が起き、そのうち10例が死亡していた。
今回の5症例の年齢は51〜84歳で、中央値は81歳、4名が男性で1名が女性、発症日は6月12日〜7月11日の間であった。2例が死亡し、ともに80歳以上で重い基礎疾患があった。5例中4例はA社の工場の近くに住んでおり、距離は300m〜3kmであった。
地区の16の会社で冷却塔とスクラバーの環境調査が行われた。6月24日〜7月16日の間に採取された19の冷却塔と13のスクラバーからの検体について、総細菌数とともにPCR法もしくは培養検査によるレジオネラ属菌の検査が実施された。
3人の患者からLegionella pneumophila 血清群(SG)1が分離されていた。16社のうち4社の検体からレジオネラ属菌が検出され、うち2社(A社とB社)の検体からL. pneumophila SG1が分離された。6月24日と25日にA社で採取された5検体と3症例から得られた検体では、遺伝子型も一致していた。
これらの環境からの陽性検体のうち、1検体は2005年の集団発生において感染源と同定されたスクラバーから採取され、このスクラバーは7月初めに使用中止とされた。別のスクラバーからの2検体と、有機物を微生物学的に分解作業する複数のエアレーション槽からの2検体が陽性であり、これらの槽では1010cfu/lの高濃度でL. pneumophila SG1が見つかった。また、この工場の川への排水口と10km以上下流でも高濃度のL. pneumophila SG1が検出された。これらの槽は詳細が判明するまで閉鎖されることになった。
調査により、5例のうち3例はA社でのレジオネラ属菌分離との関連があると結論づけられたが、工場からどのように患者に広まったのかは不明のままである。2005年の集団発生の後、エアロゾルを発生させる設備によるレジオネラの拡散を抑えるために強化された法律にのっとって調査や検査を行っていたにもかかわらず、2005年と2008年の集団発生は同じ工場と関連しており、ノルウェーの健康当局は現在のガイドラインと法律を見直すことを考えている。また、今回の集団発生を通して、生物学的な処理を行うプラントからのレジオネラ属菌の環境中への拡散についてさらに研究をすすめる必要性が認識された。
(Eurosurveillance, 13, Issue 38, 5-6, 2008)