ヒト便から増菌培養で分離されたβ- グルクロニダーゼ活性を示さないShigella sonnei について
(Vol. 29 p. 343-344: 2008年12月号)

直接分離培養では検出されず、Shigella brothによる増菌で分離され、かつβ- グルクロニダーゼ活性を示さない比較的珍しいShigella sonnei の分離を経験したので紹介する。

検体は、県内O市在住の有症者(抗菌薬投与有り)の便1件、およびその家族で無症状者の便3件、合計4件である。これらの家族は、いずれも2008(平成20)年8月14日に外国産冷凍イカを喫食していた。

培養は、(1)Buffered peptone water(35℃、一夜培養)による前増菌を行い、さらにShigella broth(1.5 ml/l Tween 80、0.5 mg/lノボビオシン含有、42℃、一夜培養)による増菌培養後、分離培養(35℃、一夜培養)を行ったもの、(2)Shigella brothによる増菌培養のみを分離培養に加えたもの、(3)直接分離培養のみを行ったもの、の3種類を行った。分離用の寒天平板培地は、いずれの培養方法でも、Salmonella-Shigella 寒天培地、Deoxycholate-Hydrogen Sulfide-Lactose寒天培地、MacConkey寒天培地、Xylose-Lysie-Deoxycholate寒天培地、および当所にて特許出願中のβ-グルクロニダーゼ活性を指標の一つとした寒天培地の5種類を用いた。

その結果、前増菌を用いた方法および直接分離培養からは、赤痢菌を検出することができなかったが、Shigella brothを用いた増菌培養にて、有症者の便からS. sonnei が検出された。便を対象とした赤痢菌の増菌培養は、その効果が直接分離培養よりも優れているか否か不明のため、あまり奨励されていない1)。増菌培養が困難な理由は、赤痢菌が、増菌培養中に他の菌が産生する酸に弱いことが挙げられている2)。今回、便の直接分離培養では菌が検出されなかったが、Shigella brothによる増菌でS. sonnei が検出された。この事実より、増菌培養も、時には効果的であり、直接分離培養とともに、増菌培養も併用することが望ましいと考えられた。抗菌薬が投与されていたことが、今回の成績と関係があるかは不明である。

さらに、検出したS. sonnei についてアピザイム(日本ビオメリュー)による酵素活性測定を行った。アピザイムによる酵素活性試験の結果を表1に示す。本事例株は、β- グルクロニダーゼ活性を示さなかった。大村ら3)の報告でも、S. sonnei は、β-グルクロニダーゼ活性を示すことが報告されており、今回の分離株は、比較的珍しい性状を有する株だと考えられる。

また、当該株をパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE法、方法は我々の既報を参照4))により分子疫学的に検討した。PFGEの泳動結果を図1に示す。制限酵素Xba IによるPFGEにより、本事例の4菌株は、2種類のPFGEパターンを示した。そのうちの1種類のPFGEパターン(図1、レーン1および4)は、別の事例(平成20年7月、福岡県内F市内の飲食店を原因とする事例)のS. sonnei の集団食中毒事件で分離された菌株(図1、レーン5および6)と同一の泳動パターンを示した。本事例を含めたこれら2事例では、いずれの事例の患者も、外国産冷凍イカを喫食していることが判明しており、β- グルクロニダーゼ活性を示さない、比較的性状の珍しいS. sonnei が、外国産冷凍イカを介して福岡県地方に侵入した可能性が高いと考えられた。

 文 献
1) Janda JM, Abbott SL,The genus Shigella . In : Janda JM, Abbott SL (eds). The enterobacteria(ASM Press). Washington, DC, 2006;p. 65-79
2) Mehlman IJ, et al ., J Assoc Off Anal Chem 68: 552-555, 1985
3)大村寛造ら, 感染症誌 66: 456-464, 1992
4)野田多美枝ら, 感染症誌 80: 513-521, 2006

福岡県保健環境研究所
濱崎光宏 中村祥子 江藤良樹 村上光一 竹中重幸 堀川和美

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