フィリピンへの渡航者から分離されたAH3亜型インフルエンザウイルス−沖縄県
(Vol. 29 p. 339-340: 2008年12月号)

2008/09シーズン第37週(9/8〜9/14)に、フィリピンへ渡航歴のある患者からAH3亜型インフルエンザウイルスが分離されたので報告する。

患者は、22歳・女性。フィリピンを旅行し、9月9日の帰りの飛行機内で発病し、翌9月10日に県内医療機関を受診した。症状は、39℃の発熱、倦怠感、関節痛、咽頭痛、鼻水で、同行者2名も同様の症状を呈していたとのことであった。

患者から採取された咽頭ぬぐい液について、PCR法による遺伝子検査およびMDCK細胞を用いたウイルス分離を実施した。その結果、AH3亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子が検出され、ウイルスも分離された。

分離ウイルスについて、国立感染症研究所から配布された2008/09シーズンキットの抗血清を用いて赤血球凝集抑制(HI)試験(0.75%モルモット赤血球を使用)を行った。その結果、抗A/Brisbane/59/2007(ホモ価640)、抗B/Brisbane/3/2007(同1,280)、抗B/Malaysia/2506/2004(同1,280)に対してはいずれもHI価<10、抗A/Uruguay/716/2007(同1,280)に対してはHI価160を示したことから、AH3亜型インフルエンザウイルスと同定したが、ホモ価より8倍低い反応性であった。

本症例は、フィリピンを旅行し帰国の日に発症したことから、渡航先での感染が考えられた。本県における海外渡航者からのインフルエンザウイルスの分離例は、本症例を含め6例が報告されている(表1)。これらの症例をみると、渡航先はミャンマー(IASR 24: 259-260, 2003)フィリピン(IASR 25: 237, 2004)、ベトナムなど、すべて東南アジアの国々で、発生時期は6月〜11月であった。このような東南アジア地域からの輸入症例は、他県からも報告されており(IASR 24: 324, 2003、IASR 25: 290, 2004、IASR 26: 303, 2005)、発生時期は8月〜10月で同様であった。本邦においてこの時期は、インフルエンザ非流行期〜流行の立ち上がりの時期であり、これらの輸入症例は国内における流行の発端となる可能性もある。このことから、東南アジア地域への旅行者は感染予防の注意が必要であり、渡航歴のある患者については積極的なサーベイランスが重要と思われた。

沖縄県衛生環境研究所
平良勝也 岡野 祥 仁平 稔 糸数清正 中村正治 稲福恭雄
沖縄県感染症情報センター
古謝由紀子 桑江なおみ
沖縄県南部保健所
中村孝一
沖縄県福祉保健部健康増進課
石川裕一 糸数 公

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