大阪府における無菌性髄膜炎の病原体サーベイランス、2000〜2008年
(Vol. 30 p. 4-5:2009年1月号)

大阪府感染症発生動向調査事業の病原体定点医療機関のうち、大阪市・堺市を除く大阪府内定点で感染症と診断された患者から採取された検査材料について大阪府立公衆衛生研究所において病原体の検索を行っている。ここでは2000年4月〜2008年9月までに検出されたエンテロウイルス(EV)、特に無菌性髄膜炎(AM)患者から検出されたEVについて解析を行った。

ウイルスの検出は分離およびRT-PCR法により行った。ウイルス分離にはVeroおよびRD-18S細胞を主に使用した。2000〜2006年はviral protein (VP) 1を含む領域を増幅するPCR 1) を行い、2007年以降はVP4を含む領域を増幅するseminested PCR 2) を行った。

AM患者は0歳児および5歳前後の幼児に多くみられた(図1)。AMから多く検出されたのはエコーウイルス(E)6、13、18、30型、コクサッキーウイルスB(CB)5型などであり、その他の疾患からはコクサッキーウイルスA(CA)4、6、10、16型、EV71などが多く検出された(表1)。AMを年度別にみると、2000年はE9が主であったが、全国的にはE11が多く報告された。大阪府では2001年からE11の流行がみられ、翌年まで検出された。2002年にはE13の大流行がみられた。またE6も検出され、翌年も流行した。同じ2003年にはE30が大流行した。2004年、2006年にはE18が流行したが、この両年には15歳以上のAM患者が増加した。2007〜2008年には再びE30が流行し、CB5も多く検出された。

EVを共通に増幅するRT-PCR法で5'non coding region(5'NCR)を標的にするもの 3,4) 、VP4領域を標的にするもの 5) およびVP1領域を標的にするもの 1) を検討したところ、5'NCRを増幅するRT-PCRは検出感度に問題はないが、塩基配列解読による血清型同定は不可能である 6) ことから、血清型別を要求するサーベイランスには不適当であると考えられた。しかしreal-time PCRによるEVの検出には有用である 7,8) 。VP4領域のRT-PCRは大部分のEV流行株が検出可能であり、ライノウイルスも検出できるが、増幅感度がやや低い傾向にあると思われた。VP4(207塩基)のBLAST検索では同定が困難な血清型(E5、E30)があった。VP1領域のRT-PCRはプライマーの組み合わせによっては検出できない血清型があったが、増幅感度は良好で、BLASTによる型同定も容易であった。

PCR法は迅速な診断が可能であり、培養細胞での分離が困難なCAの一部やEV70を検出できるという利点がある。また中和で同定困難な流行株の塩基配列を解析することにより型同定が容易になる。VP4領域を標的にしたnested PCRは臨床検体からのEV検出により有効であり、事実2006年にRT-PCRで陰性であった90検体中13検体がnested PCRで陽性となった。しかしPCR法は常にDNA汚染の危険性があり、専用器具、フィルターチップの使用などの細心な注意が必要とされる。またRNA抽出時の交差汚染にも注意する必要がある。

AM患者からはムンプスウイルスがしばしば分離され、また単純ヘルペスウイルスなどの関与も疑われるので、EVのPCRのみでは診断が確実とはいえないであろう。EV検出においてRT-PCR法は分離法よりも感度が高いことが確かめられた 9) が、それぞれの特徴を生かした診断マニュアルを用いることが重要であると思われた。

 文 献
1) Oberste MS, et al ., J Clin Microbiol 38: 1170-1174, 2000
2)石古博昭, 他, 臨床とウイルス 27: 283-293, 1999
3) Hyypia T, et al ., J Gen Virol 70: 3261-3268, 1989
4) Chapman NM, et al ., J Clin Microbiol 28: 843-850, 1990
5) Olive DM, et al ., J Gen Virol 71: 2141-2147, 1990
6) Tholen I, et al ., J Clin Microbiol 42: 963-971, 2004
7) Verstrepen WA, et al ., J Clin Microbiol 39: 4093-4096, 2001
8) Nijhuis M, et al ., J Clin Microbiol 40: 3666-3670, 2002
9)山崎謙治, 他, 感染症学雑誌 79: 117-121, 2005

大阪府立公衆衛生研究所
山崎謙治 左近直美 中田恵子 加瀬哲男

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