2003〜2008年11月の島根県における無菌性髄膜炎(AM)からのエンテロウイルス分離状況について報告する。
島根県における過去6年間のAMの発生状況を基幹定点からの報告患者数でみると、表1に示すように2005年を除いて規模の大小はあるものの、流行が認められる。そしてそれらの医療機関から当所に検査依頼があった検体数は髄液を中心に6年間で661検体(461例)であり、年ごとの検体数は報告患者数を反映した増減であった。
当所ではAM由来検体について、主にRD-30A(RD-18S細胞から当所でクローン化)、Vero、FL、AG-1、HELの各種培養細胞を用いてウイルス分離を行っている。年ごとのウイルス分離状況は表1に示すように2004年はエコーウイルス(E)18型、2005年はE6、2006、2007年はE30、2008年はコクサッキーウイルスB(CB)3型とE18が流行した。エンテロウイルス71型(EV71)は手足口病が流行した2003年と2006年に3例分離され、2例は手足口病との併発例、1例は脳炎疑い例であった。
流行ウイルスを全国の状況と比較すると、2006、2007年のE30以外は主流行型が異なっており、地域的な流行と考えられた。また、県内でみても2006年以降の流行は中部地域に限局した流行であった。
材料別の分離数は検体数を反映して髄液、糞便、咽頭ぬぐい液の順に多いが、分離率は糞便、髄液、咽頭ぬぐい液の順であった(表2)。特に調査期間中に分離されたウイルスの中で、E30以外のウイルスでは髄液からの分離率は高くない。髄液から分離されたウイルスの病原的意義は大きいが、ウイルス分離が陽性となること(分離率の向上)を考えて、髄液に加えて糞便あるいは咽頭ぬぐい液の採取も依頼している。
ウイルス分離陽性の患者の年齢をウイルスごとにまとめ表3に示す。エコーウイルスは5〜9歳が最も多く、次いで1〜4歳、10〜14歳で占めていた。CBは例数は少ないが、エコーウイルスに比べ1歳以下の低年齢が多い傾向が認められた。また、親世代に相当する20代、30代の患者が全体の8.9%を占めており、家族内感染が起こっていることが示唆された。
2002年のE13の流行後、大きな流行は起こっていないAMであるが、流行周期の長いウイルスや過去に流行したことのないウイルスが原因となった場合、再び大きな流行につながる可能性があり、今後とも原因ウイルスの監視が必要と考える。
島根県保健科学研究所
飯塚節子 田原研司 小村珠喜 和田美江子 保科 健