エコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の高校での集団発生事例―大分県
(Vol. 30 p. 8-9:2009年1月号)

エンテロウイルス属による無菌性髄膜炎(AM)は、乳幼児での発生が多く、乳幼児期を過ぎての発症はまれである。今回、大分市内の高校においてAMの集団感染が発生し、エコーウイルス30型(E30)が分離されたので、その概要を報告する。

高校の総生徒数は782名で、2008(平成20)年8月20日以降夏風邪が流行し、生徒30数名が感染、そのうち11名が髄膜炎を発症して入院した。主症状は激しい頭痛と38〜39℃の発熱で、他に頸部硬直、嘔吐、下痢も見られた。

生徒は5施設の病院に入院し、そのうち2施設の病院から当センターに7名の検体が搬入された。当センターにおいて培養細胞(HEp-2細胞、RD-18S細胞、CaCo-2細胞、Vero細胞)を用いたウイルス分離およびRT-PCR法(VP0領域およびVP1領域)による遺伝子検査を行い、それぞれについてウイルス中和試験およびDNAシークエンシングによる遺伝子配列解析により検出ウイルスを同定したところ、E30が同定された(各検体についての成績は表1に示す)。

当該高校は工業系の学校で、生徒も男子生徒が大半であり、入院患者もすべて男子であった。また、入院患者は全員運動部(サッカー部7名、バレー部3名、弓道部1名)に所属しており、県教育委員会体育保健課では運動部のクラブハウスのトイレ等が感染源である可能性が高いと判断した。学校は、予防対策として、うがい・手洗いを励行する、タオル・ハンカチ等の共用をしない、同じ飲料を口を付けて飲まない、等を指導した。流行は重症者が出ることもなく終息した。

大分県におけるE30によるAMの発生は、1998年に大規模な流行があり、その後も2002年および2003年には、年間10例程度の検出が見られた。昨(2007)年にはE30は17例が検出され、感染症発生動向調査事業でAMから分離されたウイルスのすべてを占めた。本(2008)年のAMからはコクサッキーウイルスA16型、コクサッキーウイルスB(CB)3型、CB5、E9等が散発的に分離され、特定の型の流行は見られなかった。また、E30は今回の集団発生を除くと1例が分離されたのみであった。2007年と2008年のAMの流行は、いずれの年もピーク時で定点当たりの報告数が0.3人程度で、あまり大きな流行ではなかった。

2007年と2008年に分離されたE30の遺伝子変異を調べるため、VP0領域を用いて近隣結合法により系統樹を作成した。2007年に分離されたウイルスはいずれも散発例であるが、系統樹の近いところに位置しており、今回の発生のウイルスは昨年のものとは異なっていることが示唆された(図1)。

一般的に乳幼児の病気であるエコーウイルスによるAMが、高校生の間で流行した理由は不明である。ウイルス側の要因の他に、発症者がすべて運動部の生徒であること、また、夏休み中の強化練習が実施されていたことを考慮すると、過度な疲労といった宿主側の要因もあったものと考えられた。この事例以降、県内では同様の発生は報告されていない。

大分県衛生環境研究センター
長岡健朗 加藤聖紀 本田顕子 小河正雄

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