CODEHOP PCRによるエンテロウイルス同定
(Vol. 30 p. 12-13:2009年1月号)

CODEHOP VP1 RT-snPCRの概要
近年Nixらにより、すべての血清型のエンテロウイルスのカプシド蛋白質VP1コード領域ゲノムを高感度に増幅する方法(CODEHOP VP1 RT-snPCR)が開発された 1)。CODEHOP(consensus-degenerate hybrid oligonucleotide primer)とは、関連した遺伝子を増幅するための、効率的な混合塩基プライマー設計法である 2)。この設計法では、目的の蛋白質ファミリー間で高く保存されている3〜4アミノ酸をもとに、3'側に多くの混合塩基を有するプライマーをデザインする。

図1に示すように、CODEHOP VP1 RT-snPCRは、(1)逆転写(RT、4種類のプライマーを混合して使用する)、(2)PCR、(3) semi-nested PCR(プライマー222とAN88は、同じ領域に結合する)、の3ステップからなる。増幅産物を電気泳動にて確認できれば、精製後シークエンス反応を行い、塩基配列を解析する。(1)、(2)、(3)の反応時間は、それぞれ2時間ほどである。したがって、ウイルスRNAの抽出、シークエンス反応、シークエンサーでの解析に要する時間を考慮しても、2日以内にエンテロウイルスゲノムの検出・遺伝子解析が可能である。

CODEHOP VP1 RT-snPCRの応用例(便乳剤からのウイルスゲノム検出)
エンテロウイルス感染者の糞便から便乳剤を作製し、感受性をもつ培養細胞の培養液に添加すると、その細胞は数日〜数週間のうちに細胞変性効果(CPE)を示す。エンテロウイルス分離株の血清型を同定するため、標準抗血清を用いた中和法、あるいはウイルスカプシドをコードするウイルスゲノムをRT-PCRによって増幅し、得られた塩基配列から血清型を同定する方法が使用されている。しかし、これらの細胞培養を経由する方法には、(1)ウイルスを細胞に感染させてからCPEが現れるまでに日数を要し、中和法による同定の際、さらに数日を要する、(2)細胞培養設備のない研究室ではウイルス分離が不能、(3)培養細胞でCPEを示さない、あるいは増殖しないウイルスは検出不能、等の問題がある。

細胞培養を経ることなく、便乳剤から直接エンテロウイルス遺伝子を検出できれば、上記の問題点を回避できる。そこで便乳剤からのCODEHOP VP1 RT-snPCRがどの程度有効であるのか、応用を試みた(未発表)。カンボジアの急性弛緩性麻痺患者の便検体(計256検体)から便乳剤を調製し、RNAを回収した。ついでCODEHOP VP1 RT-snPCRを用いて遺伝子検出を行ったところ、57検体が陽性であった。その検出感度は、HEp-2およびRD細胞によるウイルス分離と同程度、もしくはそれ以上であった。

さらに、増幅された塩基配列を用いてBLAST検索を行ったところ、細胞培養で頻繁に分離されるエンテロウイルスのみならず、コクサッキーウイルスA(CA)1型、CA19などの、細胞培養では増殖しないと報告されているエンテロウイルス群も多数検出された。このように、CODEHOP VP1 RT-snPCRは培養細胞で増えないエンテロウイルスの検出および同定にも役立つことが示された。

まとめ
従来広く使用されているエンテロウイルスのRT-PCR検出法は、VP4-VP2領域を増幅する方法である。この方法は、エンテロウイルス属で高く保存されている領域をターゲットとしているため、RT-PCR成功率は高いが、血清型同定が困難な場合がある。

CODEHOP VP1 RT-snPCRは、(1)多様性が高く血清型との関連性が強いVP1領域を増幅するため、塩基配列からの血清型の同定が容易である、(2)semi-nested RT-PCRであるため検出感度が高い、といった長所を兼ね備えている。そのため、培養細胞で分離したエンテロウイルスの同定だけでなく、臨床検体から直接エンテロウイルスを検出・同定するための高感度遺伝子検出法としての応用が期待できる。一方、留意すべき点として、(1)高感度であるがゆえコンタミネーションによる偽陽性の恐れが高くなる、(2)2種類以上のエンテロウイルスが混在するサンプルは同定不能である、(3)RTに加えPCRを2回行うので高価である、等が挙げられ、特にクロスコンタミネーションの可能性には、十分注意する必要がある。培養細胞を用いたエンテロウイルス分離同定法も含め、必要に応じた検査法の選択が必要とされる(本号10ページ参照)。

 文 献
1) Nix WA, et al ., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2) Rose TM, et al ., Nucleic Acids Res 26: 1628-1635, 1998

国立感染症研究所ウイルス第二部
西村順裕 Rifqiyah Nur Umami 吉田 弘 清水博之

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