流行性角結膜炎(EKC)は、アデノウイルス(Ad)による重症な急性濾胞性結膜炎や耳前リンパ節の腫脹を特徴とする疾患である。分離される血清型は年により異なっており、近年は8型(2005年)、3型(2006年)、37型(2007年)の報告が多い1)。仙台市内の眼科定点からの患者報告数は年間60〜80人で推移し、大きな流行はなく、季節性も認められていない。今回、眼科定点においてEKCと診断された患者の結膜ぬぐい液からAdが効率よく分離されたので報告する。
材料と方法:2008年8〜9月に、眼科定点においてEKCと診断された患者から結膜ぬぐい液を採取し、Vero、RD-18S、HEp-2細胞に接種し、37℃1週間培養し、3代目まで継代した。細胞培養にてCPEが認められた検体については、培養上清を精製後、市販の11種類の抗血清で中和試験を試みた。また、検体(結膜ぬぐい液)から、市販のキットを用いてDNAを抽出し、Saitohら2)が報告したヘキソンの保存領域に設定したプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物を精製後、ダイレクトシークエンス法により遺伝子解析を行い、DDBJのBLAST検索による血清型の同定を行った。
結果および考察:結膜ぬぐい液5検体中4検体からHEp-2細胞で2代目までにCPEが観察されたが、Vero、RD-18S細胞では著明なCPEは認められなかった。中和試験により血清型3型、7型、11型が1株ずつ同定されたが、他の1株は19型と37型両抗血清により中和され、同定できなかった。一方、5検体すべてからPCRでAdの遺伝子が検出され、増幅産物をダイレクトシークエンス法により遺伝子解析(891bp)を行い、BLAST検索を行った結果、Ad3とAd7類似株が1株ずつ、Ad37類似株が2株と判定され、残り1株はAd11とAd35に同率の相同性を有していた(表1)。今回Adが効率よく分離された要因として、発症日から1〜4日に検体が採取され、1週間以内に細胞に接種できたことが考えられた。仙台市内でのAd7の分離は2002(平成14)年以降なく、また、結膜ぬぐい液からの分離は初めてである。Ad7は肺炎等を引き起こすことが知られており、今後発生動向を注視していく必要がある。一方、遺伝子解析の結果では、すべての検体において遺伝子が検出され、血清型を推定することができたことから、アデノウイルスの迅速な確定診断法として有効であると考えられた。
文 献
1) IASR 29: 93-94, 2008
2) Saitoh, et al ., J Clin Microbiol 34: 2113-2116, 1996
仙台市衛生研究所
勝見正道 大山 文 関根雅夫 小黒美舎子 熊谷正憲
国立病院機構仙台医療センター眼科
太田有夕美 目黒泰彦 野呂 充