2008年11月に保育所で認められたサポウイルスによる集団胃腸炎事例―大阪市
(Vol. 30 p. 13: 2009年1月号)

2008年11月に大阪市内の保育所において園児および職員に嘔吐・下痢を主症状とする集団胃腸炎事例が発生し、患者便からサポウイルス(SV)を検出したので、その概要について報告する。

当該施設は、3〜5歳児85名(3歳児27名、4歳児30名、5歳児28名)、職員23名が在籍する保育所であり、年齢ごとにクラス分けされている。各クラスは個別の保育室を使用しており、3歳児と5歳児の保育室は隣接している。延長保育の場合は全園児を3歳児の保育室で保育している。患者発生は、11月7日〜21日の期間に3歳児12名(44%)、4歳児10名(33%)、5歳児7名(25%)、職員2名(8.7%)の合計31名(29%)であり、患者の約80%は11月9日〜14日の6日間に発生していた(図1)。患者の症状は下痢16名(52%、1〜3回/日)、嘔吐21名(68%、1〜4回)、発熱2名(6.5%、37.3℃)であった。聞き取り調査によれば、11月7日に3歳児2名が保育室で嘔吐しており、本事例の初発であると考えられた。その吐物処理の際には、消毒は実施されていなかった。また、11月9日発症の4歳児は、11月7日の延長保育で3歳児保育室にて保育されており、初発園児と接触があった。11月20、21日発症の職員は、1〜2日前に患者の吐物処理を行っていた。

ウイルス検査は、胃腸炎症状を呈した園児5名から採取された糞便を検査材料とし、まずリアルタイムPCR法によるノロウイルス検査 1)を実施したが、すべて陰性であった。次いでOkaらのリアルタイムPCR法 2)によるSV検査、市販ELISAキットを用いたA群ロタウイルス(ロタクロン、TFB)、腸管アデノウイルス(アデノクロンE、TFB)、アストロウイルス(IDEIA Astrovirus amplified、OXOID)の検査を実施した。その結果、3名からSV遺伝子が検出され、他のウイルス検査はすべて陰性であった。SVが検出された園児の糞便中には、糞便1g当たり105〜108コピーのSV遺伝子コピー数が認められた。さらに、SV陽性3検体についてOkadaらのプライマー 3)を用いてPCRを行い、増幅産物をダイレクトシークエンスして塩基配列を決定したところ、検出されたSVはすべて同じ塩基配列であった。また、分子系統解析および相同性検索の結果、本株はGenogroup Iに分類され、Argus/2/2003/IQ株(DQ239564)に近縁であった。

患者発生状況、聞き取り調査およびウイルス検査結果から、今回の事例は11月7日の初発例を発端として、施設内で人から人へ感染が拡がったサポウイルスによる集団胃腸炎事例であると考えられた。施設に対しては、当該区保健福祉センターにより、手洗いの励行、吐物・糞便などの処理方法、塩素系消毒薬による消毒など、二次感染防止のための指導が実施された。最近では、Genogroup IVのSVによる食中毒 4-6)や集団胃腸炎など 7,8)が報告されており、SVもノロウイルスと同様に集団胃腸炎の原因として注意する必要がある。

本事例に関して疫学調査等の情報収集にご協力いただいた関係保健福祉センターおよび生活衛生監視事務所各位、SV遺伝子の解析にご協力いただいた国立感染症研究所ウイルス第二部・岡 智一郎先生に深謝いたします。

 文 献
1) Kageyama T, et al ., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
2) Oka T, et al ., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006
3) Okada M, et al ., Arch Virol 151: 2503-2509, 2006
4) IASR 28: 294-295, 2007
5) IASR 29: 129-132, 2008
6) IASR 29: 198-200, 2008
7) IASR 29: 48-49, 2008
8) IASR 29: 46-48, 2008

大阪市立環境科学研究所
入谷展弘 改田 厚 阿部仁一郎 久保英幸 後藤 薫 長谷 篤
大阪市保健所
齊藤武志 仁科展子 森 登志子 穴P文也 吉田英樹

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