2008年千葉県における高校柔道大会に起因した麻しん集団発生
(Vol. 30 p. 32-34:2009年2月号)

2008年の千葉県全県下の麻しん患者の発生は感染症発生動向調査による全数報告で1,071例であった。報告は第1週から見られ、第5週〜第12週にかけて、また、第21週〜第29週にかけて2つのピークが見られた(図1)。第1のピークは県北西地域の小・中学校を中心としたものであったが、第2のピークは中・高等学校を中心としたもので県全域に及んだ。患者の年齢構成は、第2のピークを反映して、15〜17歳の高校生相当が34.2%(366例)と多く、ワクチン接種歴を有する者は49.4%(529例、うち2回接種者46名)と、半数近くを占めていた(図2)。また、検出された麻しんウイルスの遺伝子型はD5型が45株、H1型が2株、A型が1株であった。

第2のピークは第21週(5月19日〜25日)から報告数の増加が見られ、千葉市で開催された「関東高等学校柔道大会千葉県予選大会(5月10、11日開催)」に関連しているとの情報が得られた。このため、通常の麻しん情報に加えて、週別・保健所別に匿名化した学校別の発生状況を、県庁、保健所、衛生研究所等関係者からなるメーリングリスト「健康危機事案発生情報共有システム」に発信した。

5月26日には県疾病対策課、県教育庁、県学事課は、事件の周知と感染拡大防止のための通知を全県の高校に対して行った。さらに、県教育庁は高校生の運動競技会参加への条件として、麻しんワクチンの2回接種あるいは抗体保有の確認を求めた。第21週〜第29週の麻しん報告総数は感染症発生動向調査で583例に、千葉県麻しん対応マニュアル(平成18年策定、20年3月一部改正)に基づく学校報告では649例(千葉市を含む)に及んだ。発生学校数は177校に達し、対策会議が139校で開催され、その30校で学校閉鎖等が実施された。その内訳は小学校11校、中学校5校、高校11校、その他3校であった。

そこで、今後の麻しん対策を検討することを目的として、高校柔道大会参加者全員に対してアンケート調査を行った(91校1,016名、回収1,006名、99%)※。調査では5月1日〜30日までに発熱、発疹、結膜炎、カタル症状のいずれかの症状があり、医療機関を受診し、麻しんと診断されたと回答した45校86名(8.5%)を麻しん患者とした。

これら麻しん患者の発疹出現日のピークは、ワクチン接種歴の有無にかかわらず5月25日であったことから、曝露日は発疹出現日のピークの14日(曝露から発疹出現までの平均日数:CDC)前の5月10日前後と推定され、これは高校柔道大会当日に一致した(図3)。index caseは不明であったが、行動調査から患者全員が10日の開会式に出席しており、特定の感染リスク要因となった場所は他に考えられないことから、感染経路はこの会場での空気感染によると推定された。

アンケート対象者の既罹患率は16.7%、ワクチン既接種(1回以上)率は79.8%、未接種・未罹患率は5.3%、不明率は6.6%であった。今回の麻しん発症率は、既罹患者中の4.2%、ワクチン既接種者中の7.2%、未接種・未罹患者中の28.3%であった。未接種・未罹患者は麻しんに曝露された場合には100%発症するとすれば、その発症率28.3%がそのまま会場での曝露率となるので、このような集団でのワクチン既接種者の発症率は、25.4%[既接種者の発症率(7.2%)/曝露率(28.3%)]と推定された。

千葉県における2008年の発生動向調査および本事例のアンケート調査から、ワクチン接種率が低く、罹患歴が不確実な集団に麻しんが持ち込まれると、容易に集団発生を引き起こし、感染拡大することが改めて示された。

今後の対策には、ワクチン接種率向上は当然のこととして、感染症発生動向調査に加えて、発生リスクの高い学校情報も収集して、校内の麻しん対策を推進することが望まれる。

※2008年の千葉県高校柔道部大会に関連した麻しん集団発生の調査報告書(http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/c_sippei/9kannsennsyou/judo.html

千葉県衛生研究所
吉岡 康 齋加志津子 小倉 誠 岡田峰幸 篠崎邦子 小川知子
千葉県市原健康福祉センター 一戸貞人

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る