2008年第21週に大阪府内で麻疹と診断された患者からD4型麻疹ウイルスを検出したので詳細を報告する。
患者1:1歳5カ月男児。2008年5月17日から発熱し(40.2℃)、21日から発疹およびリンパ節の腫脹がみられた。22日にコプリック斑が確認され、臨床症状から麻疹と診断された。麻疹ワクチン接種歴はなかった。21日の血清では麻疹IgM9.09、IgGは陰性であった。男児は4月15日〜5月14日の期間、イスラエルへの渡航歴があった。
患者2:患者1の双子の弟。5月23日にグロブリン製剤の投与を行ったが29日から発熱、31日からは発疹が見られ、臨床症状から麻疹と診断された。実験室診断は行われなかった。
患者1から5月21日に採取された咽頭ぬぐい液および血液を用いてRT-nested PCR法およびB95a細胞を用いたウイルス分離による実験室診断を試みた。PCRの結果、咽頭ぬぐい液と血液の両方から麻疹ウイルスのNおよびH遺伝子が増幅されたが、いずれの検体からもウイルスは分離されなかった。シークエンスおよびN遺伝子の配列に基づく系統樹解析の結果、増幅されたN遺伝子はD4型麻疹ウイルスに分類された(図1)。BLAST検索の結果では、今回得られたD4型麻疹ウイルスの配列は、2007〜2008年に米国で発生したイスラエルからの輸入症例から検出された配列[EU715981]、[EU715977]、[EU375750]と一致していた。
本症例は潜伏期間からイスラエルを感染地とする輸入症例であると考えられ、遺伝子検索の結果からもそれが示唆された。ヨーロッパおよび中東諸国では、国内の麻疹流行以外に輸入症例が発端となった集団感染が問題となっている。日本では麻疹輸入症例の報告は非常に少なく、実際の発生状況を把握できていない可能性が高い。今後は麻疹の輸入症例についても監視を強化していく必要があると考えられた。
大阪府立公衆衛生研究所 倉田貴子 宮川広実 加瀬哲男 高橋和郎
箕面市立病院 金野 浩 三好洋子 山本威久