2008年11月、滋賀県において2008/09シーズン初となる小学校での集団かぜ事例から、オセルタミビル耐性のA/H1N1亜型インフルエンザウイルスが分離されたので、その概要を報告する。
2008年11月13日、滋賀県内の小学校3クラスで集団かぜが発生し、学級閉鎖が実施された。受診した医療機関において迅速診断キットでA型インフルエンザと診断されたという連絡があり、保健所が調査に入った。協力の得られた5名のうがい液が当所に搬入された。5名の発病日は11月8〜12日、主症状は発熱(38.2〜39.8℃)および 上気道症状で、その他頭痛、嘔吐、筋肉痛・関節痛が認められた。
当所においてMDCK細胞を用いたインフルエンザウイルスの分離を行ったところ、5名中2名については、MDCK細胞初代培養4日目から細胞変性効果が認められた。それらの培養上清はモルモット赤血球(0.6%)を用いた赤血球凝集(HA)試験でHA価64〜128を示した。そこで、これらの分離株について、国立感染症研究所から配布された2008/09シーズン用インフルエンザウイルス同定キットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、抗A/Brisbane/59/2007(H1N1)血清(ホモ価1,280)に対してはHI価320を示したのに対し、抗A/Uruguay/716/2007(H3N2)血清(同1,280) 、抗B/Malaysia/2506/2004血清(同2,560)および 抗B/Brisbane/3/2007血清(同2,560)にはいずれもHI価<10であったことから、分離株をAH1亜型インフルエンザウイルスと同定した。また、分離された2株についてNA遺伝子の部分的な遺伝子解析を行ったところ、2株ともオセルタミビル耐性株に特徴的なH275Y耐性マーカーがみられた。国立感染症研究所ウイルス第三部第一室に確認検査を依頼したところ、耐性株であることが確定された。
今回インフルエンザウイルスが分離された2名中1名は11月10日から発病し、11日からオセルタミビルを内服していたが、もう1名は内服していなかった。
2008年1〜3月に滋賀県内で採取された検体から分離されたA/H1N1亜型インフルエンザウイルス分離株16株については、オセルタミビル耐性株は認められなかった。今回、滋賀県で初めて耐性株が分離されたが、2007/08シーズンでは神奈川県や兵庫県などでも耐性株が出現しており、鳥取県においては32.4%が耐性株であったと報告されている(IASR 29: 334-339, 2008)。
滋賀県感染症発生動向調査におけるインフルエンザ定点当たり患者数によると、2008年第50週(12/8〜14)に患者数が1.0以上となり流行が始まった。これから本格的なインフルエンザの流行期に入るとみられ、AH1亜型だけでなくAH3亜型およびB型についても耐性株の動向に注目していきたい。
滋賀県衛生科学センター
松本文美絵 大内好美 南 祐一 田中千香子 吉田とも江 藤田直樹