ヒストプラスマ症はHistoplasma capsulatum の感染によって起こる真菌感染症で、鳥やコウモリの排泄物に汚染された土壌が感染源になると考えられている。世界中に発生が見られ、米国では呼吸器および全身性真菌感染症の代表的なものである。しかし、ヒストプラスマ症蔓延地域からの帰国者のヒストプラスマ症はまれで、海外旅行帰国者の間で診断のついたすべての疾患のうちの0.5%以下を占めるに過ぎない。
2008年2〜3月の間に、ペンシルベニア州とバージニア州の健康当局は、エルサルバドルで教会の補修作業を行った3つの宗教グループで起きたヒストプラスマ症の集団発生に関して疫学調査を実施した。
症例定義は、2008年1月3日〜2月10日の間にエルサルバドルを訪れた3つの宗教グループのメンバーで、以下のどちらかの条件を満たすものとした。
1)H. capsulatum が検査室で分離同定されたもの
2)エルサルバドルについてから24時間以内に発熱を認め、かつ、頭痛、咳、胸痛、呼吸困難のうち少なくとも2つの症状が認められるもの
その結果、3つの宗教グループ35名のうち、情報の得られた33例中20例(男性12名、女性8名、発症率61%)が症例定義にあてはまった。この20例のうち7例(35%)が検査室診断、13例(65%)が症状による診断であった。潜伏期は正確には計算できなかったが、エルサルバドルへの到着から発症までの日数の中央値は12日(範囲3〜25日)であった。
年齢、性別、グループ別のヒストプラスマ症発症率に差はなかったが、穴掘り、屋内外での清掃、鳥やコウモリのねぐらの近くでの作業、汚れた水槽の清掃などがヒストプラスマ症発症のリスクとして確認された。
この結果に従い、ヒストプラスマ症蔓延地域の旅行者や建設作業従事者は、作業中ほこりの発生を抑えるとともに、個人防御(防塵マスク装着など)を行う必要があるものと思われる。また、渡航者診療所やヒストプラスマ症蔓延地域へのグループ旅行の主催者は、ヒストプラスマ症感染のリスクに関する情報を得ておくべきであり、また、臨床医はヒストプラスマ症蔓延地域からの帰国者に急性の発熱を伴う呼吸器症状がみられた場合には、ヒストプラスマ症を鑑別診断として考えるべきである。
(CDC, MMWR, 57, No.50, 1349-1353, 2008)