2008/09シーズンに入院病棟で起きたA型インフルエンザ集団事例―千葉県
(Vol. 30 p. 75-76: 2009年3月号)

2008(平成20)年11月、市原保健所管内病院の小児科病棟で、入院中の患児6人と病棟職員7人によるA型インフルエンザの集団発生があった。本事例の疫学調査から感染経路を推定し、入院病棟でのインフルエンザ感染予防対策について考察を行った。なお、これら4人中3人にRT-PCR法でAH3遺伝子が確認され、このうち1人からウイルスが分離された。分離ウイルスは抗A/Uruguay/716/2007(H3N2)血清(ホモ価 2,560)に対しHI価5,120、抗A/Brisbane/59/2007(H1N1)血清(同1,280)、抗B/Brisbane/3/2007血清(同5,120)および抗B/Malaysia/2506/2004血清(同5,120)に対しては、いずれもHI価<10であった。

症例定義は(1)当該病棟の入院患児または職員、かつ、(2)11月13日〜11月19日に迅速診断キットでA型インフルエンザと診断された者とした。感染に関しては、従来の報告に基づき(1)インフルエンザの潜伏期を平均の2〜3日、(2)発症者が感染を起こす期間を最も感染力の強い発症前1日〜発症後3日と仮定した。

初発例の患児Aは11月13日に発熱で発症した。この時点までに病棟内でのインフルエンザ発生はなく、また、患児の母は10日から発熱があり、その後インフルエンザと診断された。これらから患児Aの感染源は11月10日に面会した母と推測された。

患児Aの病室は、11月9日(発症前4日)〜12日(発症前1日)までは2号室で、12日6号室へ、発症した13日(第1病日)は隔離のため7号室へ移動した。このため、14日に発症した患児Bは12日に2号室で、14日の迅速診断が陽性となった患児C(未発症)および15日に発症した患児Dは12日に6号室で、15日に発症した患児Eは13日に6号室で、それぞれ同室となった患児Aから感染を受けたと推測された()。患児Fは患児Aと13日に6号室で、その後、16日に7号室で同室となったが、19日の発症であり、このため9日〜16日まで同じ病室を移動し15日に発症した患児Eから16日に1号室で感染したと考えられた。なお、患児B〜Eには患児Aと同室となったため同意の上タミフルの予防投与を行ったが、患児Cを除いて発症予防はできなかった。また、職員の勤務状況から、患児Aから12日にG医師に、また、患児A、C、D、Eから、14日にH看護助手、I看護師、J看護師、K看護師、L保育士に、15日にM看護師に感染したと推察された。なお、発症した患児はタミフル投与の3日後までは感染力があったことが示唆された。

病棟では発生探知後、インフルエンザが発生したことの周知、発症者の隔離、病棟への新たな患者の入院中止、感染予防策の徹底などを行った。その結果、職員から患児への感染はなく、二次感染で感染拡大は終息した。

今回の事例では、(1)潜伏期間を2〜3日および感染期間を発症前1日〜発症後3日と仮定し、すべての症例の感染経路を矛盾なく説明できた。(2)患児間の感染拡大は、面会者のインフルエンザ感染の探知が遅れたこと、および、小児科病棟では頻回にベッド移動が行われるという特殊性によるものと考えられた。(3)職員は全員が11月初旬にインフルエンザワクチン接種を受け、勤務でマスク、手洗いなど感染予防策を実施していたにもかかわらず、多数に感染が起こった。職員への感染の多くは患児の集積した14日の6号室で起こっていることより、インフルエンザ患者が集積した場合は通常の予防策の徹底に加え、状況によっては飛沫核感染対策の考慮も必要と思われた。(4)タミフルを予防投与する場合は、接触後では限界があることに留意する必要があると思われた。

千葉県市原健康福祉センター 一戸貞人 関谷希望 石川俊樹
千葉県衛生研究所ウイルス研究室 丸ひろみ 篠崎邦子
帝京大学ちば総合医療センター 太田節雄 和田佑一

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